反社会集団(読み)はんしゃかいしゅうだん(その他表記)antisocial group

日本大百科全書(ニッポニカ) 「反社会集団」の意味・わかりやすい解説

反社会集団
はんしゃかいしゅうだん
antisocial group

公共的な社会秩序や道徳性に反し、社会の間隙(かんげき)に発生する病理集団。それは複雑な全体社会を構成する諸集団の一部であり、反社会性を特色とする部分集団である。その集団価値は、一般に社会から是認された行為基準から偏っているのみならず、対抗的であり、その存在が市民の正常な生活になんらかの攪乱(かくらん)または脅威を与えるものである。多くは官憲への秘匿性をもち、犯罪と直接間接に結び付いていることが多い。反社会集団を逸脱集団、偏倚(へんい)集団deviant groupと同義語にみなす見方もあるが、厳密にいえば同一ではない。すなわち、逸脱集団、偏倚集団はかならずしも反社会的なものばかりではない。たとえば、世間の常識から離隔した生活を送っている新宗教集団や、同性愛者のグループなどは、社会の標準からは偏倚しているが、むしろ非社会的な集団というべきで、反社会的ではない。

岩井弘融

日本の反社会集団

一般に、日本でこの語を用いるときには、博徒、的屋(てきや)、愚連隊などのいわゆるやくざ集団を意味することが多い。ヨーロッパやアメリカのマフィアのような反社会集団とはかなり異なるこれらの組織の中核をなすのは、親分子分の関係である。もちろん、外国の反社会集団でも、ボスと配下の関係はあるが、日本の場合は一種の擬制家族を構成する。すなわち、親分からの保護と子分からの奉仕とが一対の互恵関係をなして、その結合をますます強固なものとしている。原理的には、あたかも封建社会における主従関係にも似て、その強固な結合は、一般人に対して大きな脅威を与える源泉となっている。

 擬制家族という点で、さらにいま一つ重要な関係は兄弟分関係であり、暴力的な世界においては、それは肉親以上の固い結合となっている。またいま一つ生活の型という点で、杯(さかずき)式、仁義破門、旅人制度、奉加帳縄張りなどの諸慣行が生きていることも注目すべきである。それらは、よくみれば、けっして特異なものではなく、かつて職人や下層社会によくみられた日本の古い習俗の残存を示すものである。

 もちろん、反社会性を有する集団は先にあげたものにとどまらず、非行集団や職業的な窃盗団、詐欺組織、覚醒(かくせい)剤の密輸や常習者の組織、売春集団などもあげられるだろう。しかし、これらの場合においても、とかく直接間接にやくざ集団と結び付くことが多く、また、その内容がきわめてこれに類似する傾向がみられる。

[岩井弘融]

背景

反社会集団が多く発生するのは、法や道徳、さらに経済、政治の面にわたる安定性が失われ、多かれ少なかれ社会解体的な条件をはらんでいる社会においてである。その成員たちは、このような条件下において私利的な欲望を集団力によって満たそうとし、法に違反する行動をとっていくのである。反社会集団はあくまで反社会的であり、通常人の社会とは離隔するはずである。しかし、日本の現実をみると、それは単純に反社会的とのみ断言しえない側面をもつことにも注意しなければならない。その価値、態度の側からみて、通常の社会にも存在する閥などともきわめて類似な傾向があるのであり、つまり、日本人の社会生活の根底にある一つの重要な価値体系にもかかわりをもっている。また、蜜(みつ)のないところに虫は集まらないのであって、こうした病理的な存在を生む日本の社会のあり方そのものも問題となるであろう。

[岩井弘融]

『岩井弘融著『病理集団の構造』(1963・誠信書房)』

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