文法用語。態voiceの一つで、能動態active voiceに対する。所相、受け身などともいわれる。「読む」「書く」「殺す」などの他動詞は、意味上その動作を行う動作主と、その動作の対象となる受動者とをとる。この両者の構文論上の働きの違いの型が態である。能動態は「太郎が次郎を殺した」のように、動作主が主語、受動者が目的語になるものである。これに対して、受動態は「次郎が太郎に殺された」のように、受動者が主語になり、動作主は格助詞の「に」をとって補語となる。日本語の場合は、主語、目的語の交替とともに、動詞に受け身の助動詞「れる、られる」がつく。英語ではJohn killed Bill.――Bill was killed by John.のように、主語と目的語が交替し、動詞を過去分詞にして、その前にbe動詞を置く。このように受動態をつくる形式は言語によって異なるが、同じできごとを、話し手が動作主の立場にたって能動文として表現するか、受動者の立場から受動文として表現するかという態の現象そのものは、諸言語に共通のものであろう。どちらも同じできごとを表すにしても、受動文はその主語が他動詞の表す動作の影響を受けるという意味合いが出て、場合によっては、被害または利益を受けるという解釈も出てくる。「太郎は雨に降られた」「母親はひとり息子に死なれた」など、自動詞文からつくる受動文は日本語独特のもので、これは本来被害の意味を表すものである。
[奥津敬一郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ここでは〈kick〉という動作が向けられるthe dogが主語になっていて,前の文で主語としてあらわれた行為者(John)は前置詞に導かれている。このような場合動詞は受動態passive voiceであり,英語ではbe動詞+過去分詞の形をとる。英語などではこの能動と受動の二つの態だけが区別されるが,たとえばギリシア語などでは,さらに中間態middle voiceが存在する。…
…また,〈すぐれている,漂々としている〉のような,形容詞的な性格のものもある。
[態(ボイス)]
あるものが他のものに働きかけ,影響を与える種類の表現で,働きかける側を主役に見立てて言う形式と,働きを受ける側を主役に見立てて言う形式とが規則的な対立としてとらえられるとき,前者を能動態,後者を受動態と呼ぶことが多くの言語についていわれる(態)。日本語では,〈王さんが彼を育てた〉〈彼は王さんに育てられた〉のように,〈~する〉と〈~される〉の対立が規則的に見られるから,〈(ら)れる〉が受動態(受け身)を表す文法的形式だということができる。…
※「受動態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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