改訂新版 世界大百科事典 「水素化分解」の意味・わかりやすい解説
水素化分解 (すいそかぶんかい)
hydrocracking
有機化合物を水素の共存下で分解すること。とくに石油の重質油や石炭などを高圧の水素のもとで触媒を用いて分解し,軽質の液体燃料を生産する方法をいう。ここでは石油の水素化分解について述べるが,石炭の水素化分解については〈石炭液化〉の項を参照されたい。
石油の水素化分解は,熱分解や接触分解と同様に,原油を蒸留して得られる重質の残油を原料として,付加価値の高いナフサ,灯油,軽油などの留出油を生産する目的で行われる。目的に応じて上記の留出油の生産割合を調整できること,生成油の容量収率が原料油に対し100%をこえること,などの利点がある反面,水素消費量が多く,高圧装置が必要であるなど,操業費や設備費が高くつく欠点がある。水素化分解反応は,原料の性状や目的製品の種類によって異なるが,温度380~450℃,圧力50~200気圧の条件下で,大量の水素の存在下で実施される。触媒としては金属または金属硫化物を固体酸に担持させたものが用いられる。具体的にはアルミナ,非晶質シリカ-アルミナ,合成ゼオライト(沸石)などが担体として使われ,また白金,パラジウム,ニッケル硫化物,タングステン硫化物などが金属あるいは金属硫化物としてよく用いられる例である。金属または金属硫化物は原料炭化水素またはその分解生成物の水素化の役割をはたし,固体酸担体は分解機能をもっており,これらの働きが互いに助け合いながら水素化分解反応が進行すると考えられている。なおモルデナイトやZSM-5など,分子の直径とほぼ同程度の細孔径をもつゼオライトを触媒担体として用いると,n-パラフィンだけを選択的に水素化分解することができる。このような原理を用いて,接触改質油のオクタン価をいっそう高めるプロセス,軽油や潤滑油の流動点を低下させるプロセスなどが開発されている。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報