吉祥天(読み)キチジョウテン

デジタル大辞泉 「吉祥天」の意味・読み・例文・類語

きちじょう‐てん〔キチジヤウ‐〕【吉祥天】

《〈梵〉Śrī-mahādevīの訳》福徳を授ける仏教守護の女神。父は徳叉迦とくしゃか、母は鬼子母きしも毘沙門天びしゃもんてんの妻とされる。ふつう立ち姿の天女で、左手如意にょい宝珠を捧げ、右手施無畏印せむいいんをつくる。功徳天。宝蔵天女。きっしょうてん。

きっしょう‐てん〔キツシヤウ‐〕【吉祥天】

きちじょうてん(吉祥天)

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精選版 日本国語大辞典 「吉祥天」の意味・読み・例文・類語

きちじょう‐てんキチジャウ‥【吉祥天】

  1. 仏語。もとバラモン教の女神で、のちに仏教に入って天女となる。顔かたちが美しく、衆生に福徳を与えるという女神。父は徳叉迦、母は鬼子母神で、北方の毘沙門天の居城に住むとされる毘沙門天の妻(あるいは妹)という。日本では金光明最勝王経会や吉祥悔過会の主尊としてまつられた例が多く、像容はふつう宝冠、天衣をつけ、右手を施無畏印、左手に如意宝珠をのせ、後世も美貌の女神として親しまれる。奈良薬師寺の画像、東大寺法華堂の塑像、京都浄瑠璃寺の木像は特に名高い。吉祥功徳。吉祥天女。吉祥女。吉祥神。きっしょうてん。
    1. 吉祥天〈京都府浄瑠璃寺〉
      吉祥天〈京都府浄瑠璃寺〉
    2. [初出の実例]「吉祥天の悔過を仕へしめ奉るに」(出典:続日本紀‐神護景雲元年(767)八月一六日・宣命)

きっしょう‐てんキッシャウ‥【吉祥天】

  1. きちじょうてん(吉祥天)

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改訂新版 世界大百科事典 「吉祥天」の意味・わかりやすい解説

吉祥天 (きっしょうてん)

功徳天(くどくてん)ともいい,〈きちじょうてん〉とも読む。インド古代神話ではラクシュミーLakṣmī(シュリーŚrī)といわれ,美,幸運,富の女神である。ラクシュミーはビシュヌ神の妃で愛の神カーマの母とされる。この世にさまざまな姿をとって現れる(権化,アバターラ)というビシュヌの神話が形成される過程で,多くの要素を統合しながらその妻として確立されたと思われる。したがって起源についても多くの説があるほか,蓮華,象など多様な事物とも関連づけられている。これが仏教にもとり入れられ,福徳を司る女神吉祥天として《金光明経》などに説かれ,少なからず信仰をあつめた。密教では毘沙門天の左脇侍として作られる。その形像は,二臂(にひ)像で冠,瓔珞(ようらく),臂釧(ひせん)を身につけることは諸経が一致するが,両手の持ち物や印相については諸説がある。現存作品は彫像が多く,左手の掌に如意宝珠をのせ右手を施無畏印にする立像が一般的である。奈良薬師寺の画像(奈良時代,国宝)は現存の吉祥天像の中でも特異な表現を見せ,右手は施無畏印にはせず掌を伏せて胸前に置くように見える。しかも,画面の右方に歩く姿を斜め横からの視点で表現しており,礼拝の本尊像の通例である正面向きの像とはせず,絵画表現の特性を活用している。一方,京都府浄瑠璃寺像(鎌倉時代,重要文化財)は諸経の記述どおりの典型的な作品である。幸福の女神であるために,両像ともそれぞれの時代の女性の理想像を反映させて表現されている。
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吉祥天 (きちじょうてん)

吉祥天(きっしょうてん)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉祥天」の意味・わかりやすい解説

吉祥天(きちじょうてん)
きちじょうてん

仏教の福徳の女神。「きっしょうてん」とも読む。サンスクリット語シュリーマハーデービーŚrīmahādevīの訳。功徳天(くどくてん)ともいう。ヒンドゥー教のラクシュミーLakmī(別名シュリーŚrī。吉祥の意)が仏教に取り入れられたもので、ヒンドゥー神話においてはビシュヌ神の妃(きさき)であり、「大海から生まれたもの」の異名をもち、愛欲神カーマの母である。キューピッドを息子にもつ美の女神ビーナスに似る点で、ギリシア・ローマ神話との交渉が考えられる。仏教ではバールフトやサーンチーにその美術的表現が現れる。女神は蓮華(れんげ)の上にいて、片手に何物かを持ち、左右のゾウ(象)の降り注ぐ水を頭に受けている。このモチーフは、諸神の乳海攪拌(かくはん)によって彼女が出現したとき、天のゾウが浄水を金瓶(きんびょう)にくんで彼女に浴びせたというヒンドゥー神話に対応する。仏教では毘沙門天(びしゃもんてん)の妃とされる。日本では古代に、彼女を本尊として福徳を祈願する吉祥天女法(てんにょほう)(吉祥悔過(けか)法)が大極殿(だいごくでん)や国分寺で行われたが、後世には、彼女への信仰は庶民的な福徳の神、弁才天の人気の陰に隠れたようである。薬師寺の画像や浄瑠璃寺(じょうるりじ)の彫像が有名で、左手に如意宝珠(にょいほうじゅ)をのせている。

[定方 晟]


吉祥天(きっしょうてん)
きっしょうてん

吉祥天

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吉祥天」の意味・わかりやすい解説

吉祥天
きちじょうてん
Śrimahādevī

仏教の女神。本来はベーダおよびヒンドゥー教に現れ,美,幸運,繁栄,豊穣をもたらす神とされる。一説にはアーリア人がインドに侵入する以前の,先住民のもつ豊穣の女神かともいわれる。ヒンドゥー教では,ビシュヌ神の神妃とされ,シュリー・ラクシュミーとも呼ばれるが,元来シュリー女神はラクシュミー女神と別個のものであり,ウパニシャッドにおいて互いに融合したという説がある。仏教では毘沙門天の妃とされ,同様に富,美,繁栄,豊穣をもたらすとされる。像容は普通,唐服の貴女の姿で,左手に玉を持つ立像が最も多いが坐像もある。日本では 8世紀以来信仰され,残された彫像,画像も多い。彫像では 8世紀のものとして東大寺法華堂(三月堂,塑造),法隆寺のほか奈良西大寺の乾漆像,唐招提寺の銅板押出像などが有名。平安時代には各地で多数つくられ,奈良当麻寺,法隆寺,京都広隆寺,岡山安養寺,鳥取学行院,岩手成島の毘沙門堂などの諸像がある。鎌倉時代の代表作として京都浄瑠璃寺,滋賀園城寺の像があげられる。また坐像の作例では奈良興福寺の像(南北朝時代)が知られる。画像では奈良薬師寺に伝わる天平時代作のものが著名。

吉祥天
きっしょうてん

吉祥天」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「吉祥天」の意味・わかりやすい解説

吉祥天【きっしょうてん】

〈きちじょうてん〉とも読む。仏教守護の善女神の一人。吉祥功徳天,功徳天とも。インド神話のラクシュミーに起源。鬼子母神(きしもじん)の子で毘沙門(びしゃもん)天の妃。福徳を授けるとされ,美しい容姿をもち如意宝珠を手にする。密教では大日如来の化身。
→関連項目七福神天部弁財天

吉祥天【きちじょうてん】

吉祥天(きっしょうてん)

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世界大百科事典(旧版)内の吉祥天の言及

【吉祥天】より

…したがって起源についても多くの説があるほか,蓮華,象など多様な事物とも関連づけられている。これが仏教にもとり入れられ,福徳を司る女神吉祥天として《金光明経》などに説かれ,少なからず信仰をあつめた。密教では毘沙門天の左脇侍として作られる。…

【ビシュヌ派】より

…この派の神学はベーダーンタ派の哲学に基礎づけられることが多く,その神学別に,さらにマドバ派,ビシュヌスバーミン派,ニンバールカ派,バッラバ派,チャイタニヤ派などの支派が分岐した。(2)パンチャラートラ派 バーガバタ派がバラモン教的な色彩を濃くもつのに対して,この派はタントラ的(タントラ)なビシュヌ教を説き,ナーラーヤナNārāyaṇaとしてのビシュヌ,およびその神妃であるラクシュミーLakṣmī(吉祥天)を崇拝する。成立の過程はあまり明らかにされていないが,この派の聖典(108典あると伝えられる)は7世紀ころから作成されるようになったと考えられている。…

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