インド中部,マディヤ・プラデーシュ州,ボーパールの北東にある代表的仏教遺跡。標高100m足らずの丘の上に前3~後12世紀のストゥーパ,仏堂,僧院などの遺構が点在する。最も重要なのは遺跡の中央部西寄りにあるひときわ大きな第1塔である。アショーカ王時代(前3世紀中葉)と思われる煉瓦積みの原塔を前2世紀に石で拡張し,欄楯を巡らし四方の入口に門を建てて後1世紀初期に完成した。基壇の直径36.6m,高さ16.5mの鉢を伏せた形はインドの仏塔の典型であり,ほぼ完全な姿を伝える最古の例である。塔門の表裏ほぼ全面に仏伝図,本生図,聖地図,守護神像,動植物文様などを浮彫する。その柔らかい表現はインド古代初期美術の頂点を示す。南門の浮彫が概して平面的で最も古く,次いで北門,東門,西門の順で1世紀初期の20~30年間に制作されたと思われる。なお南門のそばにはアショーカ王石柱の基部がのこる。第1塔の北北東に第3塔があり,釈迦の十大弟子のうちの舎利弗と目犍連の名を刻んだ舎利容器が出土した。南門のみがのこり,その浮彫は第1塔西門のそれよりもやや遅れる。第1塔の南には7世紀の第18仏堂址があり,その東の平屋根方形第17仏堂は5世紀の石積寺院の数少ない遺例である。東方から南方にかけては10~11世紀再建の第45僧院址をはじめ多くの遺址が散在する。第1塔から西へ丘の斜面を下ると壮大な第51僧院址があり,さらに進むと第2塔に至る。塔門はないが欄楯はほぼ完存する。欄楯柱の浮彫は守護神,人物,動植物が主体で,説話図はない。彫りは浅く表現は硬いけれども,きびきびとした力強さが感じられる。前2世紀末期,欄楯の浮彫の最古の例であり,少し時代の下るものも含まれる。なお覆鉢(ふくはつ)内から出土した舎利容器には,アショーカ王の頃の10人の伝道師の名が刻まれていた。この遺跡からの出土品は,丘の北麓の考古博物館に収められている。アショーカ王石柱の柱頭彫刻である4頭背中合せのライオン像をはじめ重要な彫刻が少なくない。
執筆者:肥塚 隆
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インド中部、マディヤ・プラデシュ州の東マルワ地方にある仏教遺跡。同名の約90メートルの丘の上に、第1、第2、第3のストゥーパ、および祠堂(しどう)、僧院の遺構、遺址(いし)があり、紀元前3世紀から紀元11世紀ころの間につくられたものといわれる。これらの建造物は1989年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。とくに有名な第1塔の周囲に巡らされた欄楯(らんじゅん)(玉垣)と塔門の仏伝図、本生(ほんじょう)図を主とした浮彫りは紀元前後の作で、インド仏教初期美術を代表する遺構として優れている。また、第2塔の欄楯の装飾浮彫りは第1塔のそれより古く、古代民俗神を象徴した作例が多くみられる。第3塔は欄楯は失われ南門を残すのみである。なお、丘の登り口の考古博物館にはアショカ王柱の頭柱動物石像その他、貴重な遺品が陳列されている。
[永井信一]
インド中部マディヤ・プラデーシュ州にある仏教遺跡。前3世紀から後12世紀に至るまで仏教僧院が存在し,諸王朝や商人らの保護を受けた。マウリヤ朝期の煉瓦製ストゥーパを覆う形で建立されたシュンガ朝期の覆鉢型大ストゥーパと,彫刻を伴ったその塔門および欄楯が特に壮麗である。また,グプタ朝期および中世初期の寺院,アショーカおよびチャンドラグプタ2世の碑文,著名な仏教僧の遺骨を納めたストゥーパなども存在している。
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…仏塔は土製の墳墓に起源し,前3世紀ごろより煉瓦が,前2世紀ごろより石材が用いられるようになった。覆鉢(ふくはつ)と呼ぶ半球形の本体の周囲に欄楯(らんじゆん)(玉垣)をめぐらし四方に入口を開き門を建てた典型は,サーンチー第1塔として現存する。仏教徒は仏塔を仏陀その人として崇拝し,初期の仏教美術は仏塔を中心として展開した。…
…仏教の伝説では,この王を仏教の大迫害者とする。シュンガ朝のもとでバラモン教が復興したことは確かであるが,この時代にサーンチーやバールフットの仏塔が修造されているところをみると,仏教迫害は,たとえ行われたとしても一時的なものであったらしい。この王朝はパンジャーブに本拠を置くインド・ギリシア人勢力との戦いなどで疲弊し,10王112年間つづいたあと,大臣のバスデーバVāsudeva(カーンバ朝の創始者)に滅ぼされた。…
…信者は欄楯の内側の繞道(右回りに繞(めぐ)る通路)を通ってストゥーパを礼拝した。インドのストゥーパはこの覆鉢塔形式を基本とし,その典型であるサーンチー第1塔(図)は1世紀初期の完成時の姿をほぼ完全に残している。ただし地域や時代により少しずつ差異があり,アマラーバティーの大塔に代表される南インドでは,基壇の四方に張出しを作り5本の柱を立て,欄楯の四方に入口を造るが門はない。…
…インドのヒンドゥー教建築に見るシカラ(上部へと高く積み上げられる塔状のもの)も時に含むが,一般には仏教建築の仏塔(ストゥーパ)を指す。パゴダの祖形はインド中部のサーンチーに残る仏塔(前2世紀)を好例とする。その構造は,土まんじゅう型の塔身の上に方形の平頭がのり,さらにその上に傘蓋(さんがい)が立つという形式である。…
※「サーンチー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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