向心・離心(読み)こうしんりしん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「向心・離心」の意味・わかりやすい解説

向心・離心
こうしんりしん

人口や諸施設、制度が都市の中心部に集中する生態的過程を「向心」centralization、反対に人口や諸施設、制度が都市の周辺部に分散する生態的過程を「離心」decentralizationという。都市とくに大都市の心臓部にあたる都心地域への集中過程は、現段階をしるす一つの大きな傾向でもある。しかし、この「求心的な」集中化傾向にも、変化の兆しがみられている。欧米の大都市地域では、人口や諸施設、制度の「遠心的な」分散化傾向が、1970年代以降の特色をなしている。人口の遠心的傾向は、郊外化の生態的過程として説明できるが、この人口に引き続く形で企業などの遠心化傾向も目だち始めている。たとえばアメリカでは、とくに高学歴、プロフェッショナルな職業白人の郊外住民の職場としての「清浄な産業」(クリーン・インダストリー)の郊外流出は、もはや一般的傾向をなす。さらにこの企業流出は、ハイテクノロジー関係の場合、郊外をも超えて、都市化後進地域といわれた南部西部地方に進出して、いわゆるサンベルト・シティSun-belt cityを形成し始めている。

 向心と離心の生態的過程は、同じコイン表裏の関係とされる。確かに向心と離心の往復作用は、1日の人口移動の面でみると、「都市コミュニティの心臓鼓動」といわれるように、昼間時は中心部が通勤者などの昼間人口密度が濃く、反対に夜間時は周辺部でねぐらの夜間人口の密度が濃くなる。この昼間人口と夜間人口の密度の差が、都市度の一つの説明材料となる。しかし向心と離心の生態的過程を、都市化の歴史的発展段階というか、都市のライフ・サイクル、輪廻(りんね)(ルイス・マンフォードの表現)に照らしていうと、向心から離心への大きな流れの変化が現代都市の特色をなす。一点集中型の中心部は、たとえばアメリカ南部、西部のサンベルト・シティの誕生と引き換えに、北東沿岸の大都市群、スノーベルト・シティSnow-belt cityへの道をたどる。人口(夜間、昼間)減少、高齢化、有色人種化、企業流出、都市の活力低下、新しい型の地域・都市問題の発生などの問題群は、大都市「危機」とか「衰退化」、あるいは「インナーシティinner city問題」のカテゴリーで説明されている。

 政策的には、たとえばロンドン大都市圏にみるように、これまでの「ニュータウン」政策から、中心市街地域のインナーシティ政策へと、重心が移行してきている。アメリカ東部のボストンニューヨークの既成市街地域でも、都市再活力化の政策だけではなく、郊外人口の中心部への呼び戻し運動Back-to-the-City Movementsがジェントリフィケーションgentrification(再活性化)のシンボル事業のもとに講じられている。日本でも、大阪市をはじめとする関西都市圏とか東京都心外周区が、大都市「衰退化」現象を経験している。

[奥田道大]

『吉岡健次・崎山耕作編『大都市の衰退と再生』(1981・東京大学出版会)』『成田孝三著『転換期の都市と都市圏』(1995・地人書房)』

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