吹浦遺跡(読み)ふくらいせき

日本歴史地名大系 「吹浦遺跡」の解説

吹浦遺跡
ふくらいせき

[現在地名]遊佐町吹浦 堂屋・一本木・赤坂

鳥海山(二二三七メートル)の泥流が築いた西裾の南に舌状に突出する台地上、標高五―一六メートルの緩斜面にある。庄内平野庄内砂丘の北端を限る山裾にあり、眼下の牛渡うしわたり川が遺跡の西で月光がつこう(吹浦川)に合流してすぐ日本海に注ぐ。縄文海進時には河口から内陸深く潟湖であったと推定される。遺跡の北北西には大物忌おおものいみ神社吹浦口之宮と神宮寺跡があり、「三代実録」仁和元年(八八五)一一月二一日条に「神宮寺西浜」に石鏃が降った記載がある。約三万八〇〇〇平方メートルの広範囲に及ぶ縄文時代前期末葉から中期初頭の集落跡で、昭和二八年(一九五三)に県の史跡に指定された。近年の調査はさらに平安時代初頭の遺構群を明らかにしている。

大正八年(一九一九)に貝塚が出土し、一本木いつぽんぎ貝塚として紹介され注目された。昭和二四年には遺物と横穴が出土。さらに同二六―二八年にかけて四次にわたる県下初の科学的発掘調査が実施され、竪穴住居・洞窟(のちに補正)・竪坑・貝塚などが明らかになり、食生活の残滓も含めた縄文文化が総合的に示された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吹浦遺跡」の意味・わかりやすい解説

吹浦遺跡
ふくらいせき

山形県飽海郡遊佐町大字吹浦 (ふくら) ,牛渡川北岸台地上にある縄文時代前期末葉~中期初頭の集落跡。 1951~53年に致道博物館が4次の調査を行ない,台地上から住居跡,袋状土坑,石器製作跡,台地崖面から洞穴ヤマトシジミ主体の小貝塚を発見。土器には長胴の深鉢形土器と球胴の鉢形土器があり,当遺跡を標識として吹浦式土器と呼ばれ,東北北部の円筒式文化圏と東北南部の大木式文化圏の接触型式とされていたが,その後の検討で大木式系を主体に一部円筒式の影響を受けた土器群と考えられている。石器は鏃 (やじり) ・槍・錘・擦切磨製石斧 (せきふ) ・砥石 (といし) 等のほか 玦 (けつ) 状耳飾りが見られ,縄文前期の特色が見られる。イシガメクジライノシシシカ等の動物,オニグルミ・クリ等の植物も検出された。 83,84年にはバイパス工事に伴い山形県教育委員会が再調査し,縄文期の竪穴住居跡,土坑多数のほか,平安時代前期の竪穴住居跡,大型掘立柱建物跡が確認され,拠点集落の存在が推定される。遺跡近くには大物忌神社や神宮寺があるが,『三代実録』によれば,885 (仁和元) 年6月,出羽国飽海郡神宮寺西浜の地で石鏃が発見され,それに関連して大物忌神社に奉幣した記事が見える。吹浦遺跡との関係が注目され,9世紀の正史天変地異として石鏃発見の記録があることは興味深い

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改訂新版 世界大百科事典 「吹浦遺跡」の意味・わかりやすい解説

吹浦遺跡 (ふくらいせき)

山形県飽海郡遊佐町吹浦字堂屋にある縄文時代前期末から中期初めにかけての遺跡。庄内平野の北端にあたる鳥海山麓にあり,吹浦川の河口に近い丘陵台地に立地する。遺跡にはヤマトシジミの貝殻からなる直径1mほどの小さな貝塚が6ヵ所ほど分布する。1919年,当時一本木貝塚とよばれた遺跡の一部について小規模な調査が行われたが,51-54年に数回にわたって発掘調査が行われ,平面長方形で6本の柱穴をもち炉を伴う竪穴住居跡,洞穴,フラスコ状の竪穴,石器製作所などを検出した。土器はこの地方の縄文時代前期末の標式資料とされ,吹浦式と命名された。土器のほかに,石鏃,石匕,石槍,石錐,擦切石斧,磨製石斧,砥石,玦状耳飾(未成品),綾杉文を線刻した岩版などがある。出土品は鶴岡市の致道博物館で展示されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吹浦遺跡」の意味・わかりやすい解説

吹浦遺跡
ふくらいせき

山形県飽海(あくみ)郡遊佐(ゆざ)町吹浦にある縄文前期末より中期初頭の遺跡。鳥海(ちょうかい)山の裾野(すその)が海岸に延びる台地上にあり、西に日本海が開けている。1919年(大正8)長谷部言人(はせべことんど)によって調査された一本木貝塚はこの遺跡に含まれる。数少ない日本海側の貝塚として注目され、51年(昭和26)より53年まで致道(ちどう)博物館によって、三次にわたり発掘調査が行われた。貯蔵穴として利用されたと思われる小横穴6個、長方形の竪穴(たてあな)住居跡、石器製作跡などが発見された。この遺跡から出土する土器は東北地方北部の円筒土器と南部の松島湾岸の大木(だいぎ)系土器が融合折衷した独特のもので、「吹浦式」とよばれ、北と南の文化上の接点として注目される。県指定史跡。

[川崎利夫]

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