改訂新版 世界大百科事典 「イシガメ」の意味・わかりやすい解説
イシガメ (石亀)
ヌマガメ科バタグールガメ亜科イシガメ属Mauremysに属するもっともカメらしい淡水性カメ類の総称。ニホンイシガメなど4種が含まれている。背甲はあまり高くなくてにぶい隆条があり,腹甲も,背甲と腹甲を連結する橋(ブリッジ)もともに発達している。褐色系のじみなカメで,甲や頭頸部には目だつ模様がない。後肢の水かきが発達して泳ぎが巧みであるが,陸上の行動もすばしこい。池沼や流れの緩やかな川にすみ,ニホンイシガメでは浅い渓流に見られることもある。昼間は岸辺で日光浴をするが,危険を感ずるとすぐ水中に逃れる。おもな餌は魚,甲殻類,両生類の幼生,水生昆虫などの動物質で,飼育下では植物質も食べる。ニホンイシガメM.japonicaは単にイシガメということもあり,子ガメはゼニガメ(銭亀)と呼ばれてペットにされる。日本特産で本州,四国,九州および周辺の島々に分布し,池沼や渓流にすんでいる。甲長13~18cm,背甲の後縁は鋸歯状をしており若い個体ほど著しい。産卵期は6~7月ごろで,雌は水辺の軟らかい土に,後肢で深さ15cmほどのL字形の穴を掘り,4~10個ほどの楕円形の卵を産む。子ガメは2ヵ月ほどで孵化(ふか)する。10月末から4月ごろまで水中の泥や落葉の中で冬眠する。なお,背甲に緑藻類が密生したものをミノガメ(蓑亀)と呼び,古くから吉兆として珍重される。ミナミイシガメM.muticaは吐噶喇(とから)列島の悪石島と八重山列島,台湾,中国中南部,インドシナ北部に分布している。京都周辺部にも分布するが,これは人為分布の疑いもある。腹甲の各甲板に鮮明な黒色の放射状斑紋があり,これら斑紋は幼体では中央に集まっている。甲長は15~18cmくらい,背甲は平滑で,3本の隆条も後縁のギザギザもともに不明りょう。ヨーロッパにはカスピ海沿岸地方に分布するカスピイシガメM.caspicaと,アフリカ北部,イベリア半島に分布するスペインイシガメM.leprosaがおり,形態,生態ともにニホンイシガメに類似し,7月ごろ岸辺の地中に穴を掘って4~5個ほどの卵を産む。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報