命令的委任(読み)めいれいてきいにん

改訂新版 世界大百科事典 「命令的委任」の意味・わかりやすい解説

命令的委任 (めいれいてきいにん)

強制委任ともいう。代議士をその選挙区の選挙人団統制の下におくことを目的とする制度である。その内容として,以下の諸点をあげることが多い。(1)選挙人団は,代議士に対して詳細な訓令を与える。代議士は,それを遵守する義務を負う。(2)代議士は,議会におけるその行動につき選挙人団に報告しなければならない。(3)選挙人団は,代議士が訓令に従っていないと判断する場合には,代議士に対して損害賠償を請求しうる。(4)選挙人団は,代議士を任意に罷免することができる。

 近代市民革命以前のヨーロッパの身分制議会においては,議員とその出身母体との間に命令的委任の関係が存在したが,一般に,近代の国民代表制は,代議士を〈全国民の代表〉と規定し,それに発言・表決の自由(免責特権)を保障することによって,命令的委任を禁止している,と解されてきている。しかし,近代以降においても,たとえばフランスにおけるプープル主権に基づく代表制論にみられるように,命令的委任関係の主張は存在している(くわしくは〈国民代表〉の項を参照)。

 日本国憲法の下でも,選挙人団と代議士の間の命令的委任関係を否定する形で運用されている。しかし,普通選挙権者の集りである人民(国民)が主権者であり,その人民が公務員の選定権のみならず罷免権をも〈国民固有の権利〉(15条1項)としてもっているところからすれば,日本国憲法が命令的委任を当然に禁止しているかどうか,また,選挙人が代議士を任意に罷免することまで禁止されているかどうか,検討の余地がある。ルソーのいうように,代議士に白紙委任をしてしまう人民は〈奴隷〉の地位でしかありえないからである。政党の公約を媒介とする代議士の拘束など,新しい命令的委任のあり方も検討されるべきであろう。
国民主権
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世界大百科事典(旧版)内の命令的委任の言及

【国民代表】より

… 近代市民革命前のヨーロッパの身分制議会(等族会議)においては,僧侶,貴族,庶民の3身分の代表者がそれぞれの部会をもち,議員は各地域で身分ごとに選挙されていた。議員は,選挙母体の訓令に拘束され,これに違反した場合には罷免されることになっていた(命令的委任)。議員と選出母体の関係は,私法上の委任に基づく代理の制度にならって考えられていたのである。…

※「命令的委任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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