善知鳥文治安方は,近松半二ら合作の浄瑠璃《奥州安達原》(1762初演)や山東京伝の読本《善知鳥安方忠義伝》(1806刊)などで,罪ある亡き主人の世に秘すべき遺児をかくまう役所を負って活躍している。命名の由来は,ウミスズメ科の海鳥ウトウの鳴声にまつわる和歌説話にある。母鳥が空中でウトウと鳴くと,地上に隠れている子がヤスカタと答える。その習性を利用して猟師が子鳥を捕らえると,母鳥は血の涙を流して嘆くので,血の涙を避けるため猟師は簑笠をかぶらなければならなかったという。能《善知鳥》で知られているが,《新撰歌枕名寄》(南北朝ころの成立)など中世の歌学書や《鴉鷺(あろ)合戦物語》(1476以前の成立)などの御伽草子に散見する著名な説話であった。烏頭大納言藤原安方が流罪となり,外ヶ浜をさすらい,その亡魂が善知鳥となったという在地の伝説を,菅江真澄は《率土か浜(外が浜)つたひ》に記している。また,《運歩色葉集》(1548成立)に〈虚八姿(ヤスカタ)〉の表記を示し〈昔シ異国ヨリ,虚舟(ウツボブネ)ニ八人蔵シテ流サル,其迷魂化シテ,鳥ト成ルナリ〉と注記している。善知鳥と流刑人のイメージの重なり合いは室町時代までさかのぼり,こうした説話をふまえて,近世の善知鳥安方像が創造されたのであろう。
執筆者:西脇 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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