人形浄瑠璃。時代物。5段。通称《安達原》。近松半二・竹田和泉・北窓後一・竹本三郎兵衛らの合作。1762年(宝暦12)9月大坂竹本座初演。出勤の太夫は竹本大和掾,2世竹本政太夫,初世竹本春太夫,初世竹本染太夫ほか。前九年の役後,安倍貞任・宗任兄弟と一族家臣らの再挙のための苦心譚を主材とし,謡曲《善知鳥(うとう)》の世界と,安達ヶ原の鬼女伝説を配した。安倍の忠臣善知鳥安方が文治と名を変えて,安倍貞任の子の千代童の身を守護している。文治が千代童の薬の代に禁制の鶴を殺したのを見た南兵衛が実は安倍宗任で,文治とは主従の関係。宗任がみずから鶴殺しの科人となり,都に引かれたのは,八幡太郎義家に一矢を報いんがためだった。義家の舅の傔仗(けんじよう)直方は,環宮(たまきのみや)が失踪したため切腹すべき運命にある。そこへ尋ねてきたのが,袖乞い姿で眼を泣きつぶした姉娘の袖萩と,桂中納言と名のり,にせ勅使となり乗り込んだ袖萩の夫の貞任。さらに罪人の宗任が一堂に集まるが,直方と袖萩の死もあり,義家の度量により,戦場での再会を約して別れる。いっぽう貞任・宗任の母の岩手御前は環宮を奪い,安倍家の再興を企てるが,すべてを知る義家のために事破れ,安倍親子は大望成就せず自滅する。奇抜かつ複雑な構成だが,全編の照応関係が保たれ,奥州攻め浄瑠璃の集大成である。なかでも優れた場面は,二段目切〈文治住家〉,三段目切〈環宮明(あき)御殿〉,四段目切〈一つ家〉である。本曲初演の翌年2月,江戸森田座で上演されてから,歌舞伎でも今日までしばしば復演され,ことに三段目切は,通称《袖萩祭文(そではぎさいもん)》《安達三(あださん)》と呼ばれ,文楽,歌舞伎とも流行演目になっている。雪の中を盲人の袖萩が娘のお君に手を引かれてたどりつきながら,親子と名のれず,祭文に事寄せて切なる思いを述べる舞台は,劇的効果に優れた見どころである。
→安達ヶ原
執筆者:戸部 銀作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。5段。近松半二、竹田和泉(いずみ)、北窓後一、竹本三郎兵衛合作。1762年(宝暦12)9月大坂・竹本座初演。通称「安達原」。八幡太郎義家(はちまんたろうよしいえ)の奥州攻め、いわゆる前九年の役後の安倍貞任(あべのさだとう)・宗任(むねとう)兄弟の再挙の苦心に、外ヶ浜(そとがはま)の『善知鳥(うとう)』、鬼女伝説で有名な『安達原』など能に扱われた伝説を取り入れ脚色。三段目「環宮明御殿(たまきのみやあきごてん)」が有名で、歌舞伎(かぶき)でも多く上演される。傔仗直方(けんじょうなおかた)の娘袖萩(そではぎ)は、父に背いて安倍貞任の妻になったため勘当され、戦後、夫に離れ流浪のすえに盲目の乞食(こじき)となり、娘お君を連れて父母を尋ね、雪中を環宮の明御殿にたどり着くが、晴れて親と面会ができない。貞任の弟宗任はとらわれの身となり、袖萩と巡り会う。直方は守護する環宮を敵に奪われたおちどを、勅使桂中納言(かつらちゅうなごん)に問責されて切腹、袖萩も父のあとを追う。八幡太郎義家は中納言の正体を貞任と見破り、安倍兄弟と再会を約して別れる。雪のなかで袖萩が三味線を弾き、祭文(さいもん)の文句に託して父母に許しを乞(こ)うところが見せ場なので、通称「袖萩祭文」。歌舞伎では袖萩と貞任を早替りで演じる演出もよく行われる。四段目が安達原の「一つ家(や)」で、安倍兄弟の母岩手(いわて)が環宮を擁し、資金を集めるために強盗を働く話。二段目の「外ヶ浜」では安倍の忠臣善知鳥文治(ぶんじ)が貞任の子清童(きよどう)を守り、薬代のために禁制の鶴殺しを犯し、宗任がかわりに召し捕らえられる話が描かれている。
[松井俊諭]
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※「奥州安達原」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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