不法領得の意思を持たずに,破壊・汚染などの方法を用いて,故意に他人の物の効用の全部または一部を滅失させる罪は毀棄罪(ききざい)と総称されるが,器物損壊罪はその一種であり,他人の物を損壊または傷害する罪である。文書毀棄罪,建造物損壊罪など別個の条文に規定されているもの以外のすべての他人の物について成立する(刑法261条)。自己の物でも差し押さえられているもの,質権など物権を設定しているもの,賃貸しているものなどは,他人の物と同じく扱われる(262条)。物には動物も含まれるため,行為として,損壊とならび傷害が規定されている。損壊・傷害は,効用を害すれば足り,物質的損傷たるを要しない。判例上,食器への放尿,池で飼養されている鯉の解放なども含むとされている。親告罪であり,被害者の告訴なしには起訴・処罰されない(264条)。刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料。なお,暴力行為等処罰法は,集団的毀棄・常習的毀棄に関し,刑の加重・非親告罪化などの特則を定める。
執筆者:伊東 研祐
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他人の器物を物理的に損壊するほか、その物の本来的効用を害する罪(刑法261条)。本罪の器物には、他人の物、動物(動物については「傷害」という)はもとより、土地などの不動産も含まれるが、刑法第258条(公用文書等毀棄罪)、第259条(私用文書等毀棄罪)、第260条(建造物損壊および同致死傷罪)との関係で、公用文書・私用文書(いずれも電磁的記録を含む)、建造物は除かれる。通説・判例は、効用喪失説の立場から、「損壊」とは物の本来の効用を害することと解している。このような立場からは、来客用に使用するすき焼鍋(なべ)や徳利(とっくり)に放尿する行為、養魚池に飼養中の鯉(こい)を大量に流出させる行為のほか、労働争議に際して会社のガラス窓、ドア、書棚などに大量のビラを貼って著しく美観を損なう場合も本罪にあたりうる。また、土地は「建造物」ではないから、整地された宅地を畑地用に掘り起こす行為なども、本罪にあたる。
[名和鐵郎]
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