他人の財物を物理的に損壊するなど、その物自体の価値・効用を事実上妨げる罪。財産罪の一種。毀棄罪は財物に対する他人の所有または占有を害しない点で、窃盗、強盗、詐欺、横領などのいわゆる領得罪と区別される。現行刑法第2編第40章は、「毀棄及び隠匿の罪」として公用文書等毀棄、私用文書等毀棄、建造物等損壊、器物損壊、境界損壊、信書隠匿の各罪を規定している(刑法258条~263条)。また、1987年(昭和62)の刑法一部改正によって、コンピュータ犯罪の一つとして、第258条および第259条の客体に、文書と並んで「電磁的記録」を追加した。なお、刑法は「毀棄」のほか、行為客体により「損壊」「傷害」「隠匿」という表現を用いているが、これらの内容に差異があるわけではない(ただ、隠匿につき異説がある)。「毀棄」などの意義について、通説・判例は物の本来の効用を害するいっさいの行為を含むものとして、たとえば飲食用のすき焼き鍋(なべ)、徳利(とっくり)に放尿するのもこれにあたると解している。なお、労働争議の際に行われるビラはり行為について、判例は建物の外観や美観もその効用に含まれるとして、大量で原状回復が困難な場合には本罪にあたりうると解している。
[名和鐵郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…不法領得の意思を持たずに,破壊・汚染などの方法を用いて,故意に他人の物の効用の全部または一部を滅失させる罪は毀棄罪(ききざい)と総称されるが,器物損壊罪はその一種であり,他人の物を損壊または傷害する罪である。文書毀棄罪,建造物損壊罪など別個の条文に規定されているもの以外のすべての他人の物について成立する(刑法261条)。…
…他人の物の効用を損なういわゆる毀棄罪(ききざい)にあたる行為のうち,文書毀棄罪にあたるものを除き,とくに重要な財産的価値をもつ建造物,艦船の損壊を,一般の器物損壊罪より重く処罰するもの。器物損壊罪と異なり,親告罪ではない。…
※「毀棄罪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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