一定の共通した性格をもつ団体に所属する構成員を一括して被保険者とし、この者に生死、傷害などの事故が生じたときに保険金が支払われる単一の保険契約をいう。ここでいう団体とは、会社、商店、工場その他同じ事業主による被用者団体、官公署などにおける勤務者団体などをいう。団体保険においては、一般に、従業員の福利厚生のために、事業主または団体の代表者が保険契約者となる。
[坂口光男]
団体保険には、次のような特色がみられる。
(1)個人保険においては危険選択の単位が個人であるのに対し、団体保険においては危険選択の単位は団体に置かれる。したがって、団体保険においては、団体を構成する個人の健康状態は問題としない。そのかわり、事故発生の可能性が高いリスクが集中することを排除するため、保険契約の対象となる団体の範囲を制限し、被保険団体の適格性を判断することになる。団体保険の最大の特色は、この危険の集団的選択というところにある。
(2)団体保険は単一の保険契約であり、1枚の保険証券によって団体の構成員を一括して同時に契約する。
(3)団体保険においては、構成員の個別的な審査が省略されるので審査費用が節約され、また単一の保険契約が締結されるにとどまるので事務費が軽減される。そのため、個人保険と比較して、保険料が低くなる。
なお、団体保険は、個人保険と比較して、目的や契約の形態を異にしているが、保険の基本的な仕組みは何ら異なるものではない。
[坂口光男]
団体保険は種々の観点から分類することができるが、目的によって、死亡保障を目的とする団体保険と、老後の生活保障を目的とする団体年金保険に分けられる。
[坂口光男]
事業統計上、死亡保障を目的とする団体保険に分類されるものとして、団体定期保険、団体信用生命保険、団体養老保険、心身障害者扶養者生命保険がある。
[坂口光男]
会社、商店、工場などに勤務する者を被保険者とし、団体または被保険団体の代表者を保険契約者とする保険期間1年の死亡保険である。保険料が安く、事業主負担の保険料は全額が損金となり、しかも従業員に対する給付としての課税がないという特典がある。団体保険のなかで主力ないし代表的なもので、占有率も高い保険である。
(1)対象となる団体は、団体としての危険選択が可能な団体で、その範囲は一定の基準によって定められる。
(2)保険給付として、被保険者が死亡または一定の傷害のときに保険金が支払われる。
(3)保険契約者は事業主または団体の代表者である。
(4)保険期間は1年であるが、別段の申し出がないかぎり更新して継続される。
(5)団体を構成する個々人の保険金額は、職位、年齢、勤務年数などを基準として決定される。
(6)団体定期保険は一般にグループ保険ともいわれ、全員加入団体の契約を「Aグループ」、任意加入団体の契約を「Bグループ」と称している。1996年(平成8)11月より、Aグループの専用商品として総合福祉団体定期保険が発売された。それに伴って、従来の団体定期保険はBグループ専用商品と改められたため、狭義においては、Bグループ商品を団体定期保険という。
なお、被保険者が死亡すると、保険会社から団体に対して保険金が支払われるが、被保険者の遺族は団体に対して保険金の引渡しを請求することができるかという問題があり、現在、裁判で争われている。
[坂口光男]
団体定期保険の一形態で、銀行などに対し住宅ローンなどの賦払償還債務を負う者が死亡(高度障害も含む)したときに支払われる保険金を債務に充当することによって、債権の保全と債務者の生活の安定を図るための特殊な団体保険である。
(1)保険契約者および保険金受取人は、信用供与機関または信用供与機関に対して賦払償還債務を負う者について保証する信用保証機関であり、被保険者は信用供与機関に対し賦払償還債務を負う債務者である。
(2)保険金額は、債務残高相当額であり、償還が進むにつれて保険金額も逓減(ていげん)する。
(3)債務の返済期間を保険期間とし、保険契約者が負担した保険料は債権保全費用として損金算入が認められ、また死亡保険金に対する遺族への課税も行われない。
[坂口光男]
会社、商店、工場などに勤務している従業員および役員を被保険者とし、満期または死亡したときに保険金が支払われる。遺族の生活保障と退職金の準備のための手段として利用される。もっとも、現在では、企業年金保険の普及に伴い、ほとんど販売されていない。
[坂口光男]
心身障害者の扶養者である被保険者が死亡もしくは高度障害となったときに、心身障害者の生活の安定を図るための保険である。この保険の仕組みは、次のとおりである。地方公共団体が実施している心身障害者扶養者共済制度の加入者を被保険者とし、福祉医療機構を保険契約者および保険金受取人として、生命保険会社との間で保険契約が結ばれる。心身障害者の扶養者である被保険者が死亡もしくは高度障害となったとき、生命保険会社は福祉医療機構に、心身障害者の年齢に応じた所定の保険金を支払う。福祉医療機構はこれを管理運営して、心身障害者の生存中、年金として終身にわたって給付金を支払う。なお、保険加入の1年経過後に、心身障害者が扶養者より先に死亡したときには、特別給付金が支払われる。
[坂口光男]
老後の生活保障を目的とする団体年金保険に分類されるものとして、企業年金保険(適格退職年金)、財形給付金保険、厚生年金基金保険がある。
[坂口光男]
生命保険会社が、適格退職年金制度の引受けを目的として、1963年(昭和38)に創設した商品である。企業と従業員との間で定められた退職年金規定に基づいて、企業と生命保険会社との間で、適格要件を備えた企業年金保険契約を締結する。保険契約者は会社、商店、工場などの法人または団体の代表者、被保険者は団体の所属員、年金受取人は被保険者またはその遺族である。企業は生命保険会社に所定の保険料を支払い、生命保険会社は年金積立金(責任準備金)の管理運用を行い、退職した従業員などに年金・一時金を支払う。なお、90年(平成2)に、多様化している顧客の要望に応ずるため、商品内容の拡充などをした「新企業年金保険」が発売された。
[坂口光男]
勤労者財産形成促進法(財形法)に基づく財形給付金保険は、事業主も勤労者の財産形成に寄与することを趣旨とした保険であり、事業主が保険契約者、勤労者が被保険者、保険金受取人となる。加入者は財形貯蓄、財形年金または財形住宅貯蓄を有する者で、保険料は全額について事業主が負担する。事業主の掛金は損金扱いとされる。
[坂口光男]
民間の企業が厚生年金基金という特殊な法人を設立して、厚生年金保険の一部の給付を代行し、かつ企業独自の加算部分を上乗せして、退職者に年金または一時金を基金が給付するもので、その管理運用を受託するための保険である。1966年(昭和41)に発足した厚生年金基金制度の運営のために発売された保険である。保険契約者は基金、保険者は生命保険会社、被保険者は基金の加入員である。
[坂口光男]
『生命保険新実務講座編集委員会・生命保険文化研究所編『生命保険新実務講座7 法律』(1991・有斐閣)』▽『二宮茂明編『図説 日本の生命保険』(1997・財経詳報社)』▽『『総合福祉団体定期保険のしくみ』(1997・生命保険協会)』
団体保険とは,会社,官公庁,協同組合など多人数の集団を対象にして,一括して契約する生命保険(団体生命保険group life insurance)である。
個人保険と比較して団体保険の特色は,(1)加入時に個々の被保険者について原則として医師による診査は行われないことにある。このため個々の被保険者が,恣意(しい)的に保険金額を決定できないように,職階,勤続年数,報酬などの客観的基準によって一定の金額を決定するなど,制限が設けられている。(2)被保険者に関する事務を一括して処理するために,保険料は安くなっている。なお代表的な団体定期保険では,保険料総額は厳密にはその団体内の被保険者の保険料の合計であるが,加入時に一定の方式で計算した平均保険料(各人の年齢別保険料合計を総保険金額で除して算出)を毎年適用して計算し,事務手数を簡素化していることも大きな特色である。団体内では高齢者の脱退,若年者の新規加入が繰り返され,年齢構成にあまり変化がないため,この方式を採用しても不都合でないわけである。(3)団体保険では毎年,団体ごとに収支計算が行われる。その結果,剰余があれば配当が支払われるが,赤字になっても追加保険料等は求められることはない。
団体保険の基本原理は個人保険となんら変わるものでないから,個人保険と同様にいろいろな種類があるが,保険の目的によって分けると,従業員などの在職中の死亡の場合の遺族の生活保障としては団体定期保険が代表的である。定年退職後終身にわたっての死亡保障は団体終身保険,在職中の死亡の場合の遺族の生活保障と退職金の準備には団体養老保険がある。従業員の退職後の生活保障には企業年金保険が広く利用されている。住宅ローンなど割賦利用者の遺族の債務保障には団体信用保険がある。なお団体保険は,従業員の福祉のために保険料を事業主負担とするケースが多いので,保険金額は必ずしも十分でないなどの限界もあり,個人保険による充足が必要である。
執筆者:松田 喜義
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…これらを整理すると表のようになる。個人保険とは個人を契約の対象とするものであり,団体保険は,会社や官公庁などの職域団体,医者や弁護士などの同業者団体など,多数の人の集団を対象として,加入時の診査を簡略化して,安い保険料で,一括して加入する生命保険である。なお,団体保険と呼ぶ場合には次の二つがある。…
※「団体保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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