日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
国民精神作興に関する詔書
こくみんせいしんさっこうにかんするしょうしょ
国民精神の強化振興を目的として1923年(大正12)11月10日に出された詔書。1918年の米騒動を契機に民衆運動が組織化と高揚の時期を迎え、民本主義や社会主義などの思想と運動が広がるなかで、23年9月1日関東大震災が突発した。第二次山本権兵衛(ごんべえ)内閣は大震災後の混乱のなかで危機感を強め、民本主義や社会主義などの思想に対抗するため、天皇の名においてこの詔書を出した。詔書は「国家興隆ノ本ハ国民精神ノ剛健ニ在リ」とし、「浮華放縦(ふかほうしょう)ノ習」「軽佻詭激(けいちょうきげき)ノ風」を排し、「質実剛健」「醇厚(じゅんこう)中正」の精神の確立と「忠孝義勇ノ美ヲ揚(あ)ケ」ることを国民に要求した。
しかしそれにもかかわらず1923年12月27日虎(とら)の門(もん)事件が起こり、支配層に深刻な衝撃を与えた。24年1月内務省の提唱で全国教化団体連合会が結成され、この詔書に基づき「国体明徴(めいちょう)」が高唱されるようになった。
[木坂順一郎]
『近代史料研究会編『明治大正昭和三代詔勅集』(1969・北望社)』