アシでつくった水上交通具の一つ。古代日本に葦舟があったことは、記紀の列島創造神話において記されているところから想像がつく。蛭児(ひるこ)を葦舟に乗せて流すくだりである。また弥生(やよい)時代の土器に描かれた船のなかには船首を束ねた例もある。南アメリカではコロンビア、アルゼンチン、チリと分布していたが、現在痕跡(こんせき)が残っているのは、かつての利用の中心地と考えられるアンデス地域だけである。エクアドル高地の先住民オタバロ、ペルー北海岸のワンチャコ村、さらに有名なティティカカ湖のアイマラ人、ウロ人の葦舟がそれらである。しかしこれらの舟も厳密にはイネ科のアシが材料ではなく、カヤツリグサ科のトトラを用いている点で、名称に注意しなければならない。アフリカでは、ナイル川上流のシルックの人々やアフリカ南西部のベンゲラの海岸住民の例が知られている。古代エジプトでもパピルス(カヤツリグサ科、カミガヤツリ)を束ねた舟が利用されたようで、最近サッカラで発見されたラムセス2世の妹チアの墓からも黄泉(よみ)の国へ向かう葦舟の浮彫りが報告されている。なお、新旧両世界の古代文明の有機的関連を想定したノルウェーの人類学者ヘイエルダールが、1970年に葦舟ラーⅡ世号で大西洋を横断している。
[関 雄二]
葦(ヨシ)などを束ねて作った舟で,筏(いかだ)の一種とする場合もある。材料は水辺に生える葦に限らず,小枝を使用することがあり,樹皮を丸めたものも用いられる。材料が簡単に得られ,製作に特別な道具を要しないため,古代から広く世界各地で使用されていたと考えられる。もっとも古い記録として,葦舟と思われる舟をかいた前5000年ごろのエジプトの壁画があり,前2800年ごろの壁画にはパピルスを束ねて葦舟を製作中の図が残っており,ナイル川流域で古くから使用されていたことを示している。現在でもナイル川上流地域,ティグリス,ユーフラテス下流地域,南米ペルーのチチカカ湖では葦舟が使用されている。草を用いているため強度が不足し,あまり大型のものは製作できないので,長距離の航海には使用されず,もっぱら川や湖などで使用されている。ただし,人類学者T.ヘイエルダールは,1970年ナイル川の葦を材料とし,ペルーのアイマラ族の技法によって全長12mの葦舟ラーⅡ世号を製作し,モロッコから西インド諸島までの大西洋横断航海を行って,葦舟が内水面用だけの舟ではなく外洋航海にも使用されていたと主張した。日本では《古事記》に水蛭子(ひるこ)を葦舟に入れて流し去ったとの記事があり,古くは葦舟が使用されていたと想像される。また盆の精霊船としてわらで作った舟を流す例もあり,葦舟の一種とも考えられるが,水上交通用具として葦舟を用いていた記録はなく,材料の性質上遺物が発見されたこともない。
執筆者:松木 哲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…そのため,中国のジャンクの起源はこのいかだに由来すると主張する学者もいる。イネ科の大型多年草であるアシ(葦)を束ねて浮力をつけたいわゆる葦舟はナイル川やティグリス,ユーフラテス川の流域では古代から使用されていた。今日でもアフリカのビクトリア湖やチャド湖,南アメリカのチチカカ湖ではさまざまな型の葦舟がつくられ,湖上の交通手段として重要な役割をはたしている。…
…ベトナムや台湾では,前方をそり上がらせた竹筏(テッパイ)が漁船として海上で用いられている。また,いくつかの葦の束を舟形に束ね合わせて作るいかだすなわち葦舟は,古代エジプトで用いられていたが,今日でもアフリカや南北アメリカ大陸で幅広く使用されている。 皮舟もまた,伝統的な形態の舟である。…
※「葦舟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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