国家的利益を縮約した概念。英語のnationalは国家的とも国民的とも訳されるが,英語では,国家にあたるstateに形容詞の形がないために,nationalをstateの形容詞として用いることが多い。national interestのnationalも国家的の意味に解してよいであろう。ただ現実には,政府あるいは政府支持勢力が提示する国家的利益に対して,より広範な国民の要求する国民的利益が対置されることもあり,国益がむしろ国民的利益に近い意味で用いられることもある。国益は近代外交の主導的概念の一つであり,各国が外交政策において追求すべき目標は国益であるとされてきた。しかし,〈益〉すなわちinterestの内容は,国家の安全の維持,経済的利害の追求,領土の保全・拡大といった,いわば〈利害〉のレベルにとどまるものから,国民的使命感とか国家的栄光とかいった,いわば〈関心〉のレベルに至るまできわめて多様であり,国益が明確な一義性をもつことはまれである。したがって,国益も公益と同様に現実の政治においては一個の擬制とならざるをえず,その具体的内容は,それぞれの時点における政策決定者が措定した内容にならざるをえないのである。ただ,それにもかかわらず,国益が現実の政治において一定の重要な役割を果たしていることは明らかであろう。少なくとも,国益が外交上の最も重要な目標であることが認められている限り,あらゆる外交政策は国益によって正当化されなければならない。ある特定集団が対外的に有する私的利益が,そのまま外交政策を左右することは許されないことになる。また,冷戦期のアメリカ外交におけるイデオロギー優位の傾向に対してケネディ大統領が試みたように,国益の重視を強調することは,しばしば国際緊張の緩和に役だつ。一般的にいって,国益における〈益〉が,可能な限り具体的・現実的利益として理解されるならば,国益重視の外交は国際秩序の安定に貢献するといってよい。
執筆者:阿部 斉
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「国家的利益」ともいう。このことばは、近代国家が形成されるなかで用いられるようになり、「国家の名誉」「公共の利益」などの同義語としても用いられ、ときにはその概念の至上命令的な性質を強調するために「死活的利益」vital interestともよばれた。国益は、ある国家が行動するうえでの目的といえるが、外交政策の適合性や妥当性を説明・評価するために、さらには政策を正当化、非難、提案する手段として用いられる。
しかし、国家の利益を定義するという本質的なあいまいさに加えて、国民がかならずしも一致して国益を善とみなすことはなくなったこと、国の内外の領域で追求される価値が一致しなくなったこと、さらにその内外の境界線が不明確になったことなどによって、国益の定義がますますむずかしくなっている。また、相互依存の深化によってグローバリズムといった志向が登場するなかで、単一の国家の利益を追求することは不適切かつ不可能になりつつあるといえる。
[青木一能]
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