複数の国にまたがるビジネス上の紛争を仲裁・解決(国際商事仲裁)する民間機関の総称。弁護士や法律学者などから選ばれた第三者の仲裁人が当事者間に入って調整し、最終的な裁定(仲裁判断)を示して解決する。訴訟よりも費用がかからず、迅速に解決できる利点があるとされる。企業間だけでなく、企業と政府間の紛争も仲裁する。最終的な裁定には訴訟の判決同様の拘束力があり、強制力をもつ。
国際仲裁裁判所は実際には裁判所ではなく、裁判によらない紛争解決手続き(ADR:Alternative Dispute Resolution)を進める機関の一つであるが、国内の仲裁手続きを国家間では慣行上、仲裁裁判とよぶため、この名がある。国際仲裁裁判所の審理は非公開でビジネス上の秘密が守られ、最終的な裁定は一度しか出ないため裁判ほど係争期間が長期にわたることがない。このため、複数の国の間でビジネス上の契約を結ぶ場合、当事者双方とは関係のない第三国の国際仲裁裁判所を利用することや、仲裁人の数、使用言語などを事前に決めておき、紛争解決をその国際仲裁裁判所に委ねるケースが増えている。なお、各国際仲裁裁判所はそれぞれ独自の仲裁規則をもっており、紛争当事者はこの規則に沿って紛争解決手続きを進める。また、国際仲裁裁判所の仲裁規則とは別に、国際連合国際商取引委員会(UNCITRAL(アンシトラル):United Nations Committee on International Trade Law)の仲裁規則(UNCITRAL仲裁規則)のように、紛争当事者が適用を選択できる紛争規則もあり、国連規則に従って紛争解決手続きを進めることもある。
国際仲裁裁判所に該当する機関は世界各国・地域にあり、パリに本部を置く国際商業会議所(ICC)の専門機関である国際仲裁裁判所(ICC International Court of Arbitration)のほか、ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)、アメリカ仲裁協会(The American Arbitration Association)、日本の国際商事仲裁協会(JCAA:The Japan Commercial Arbitration Association)などがよく知られている。
日本企業が国際仲裁裁判所を利用したおもな事例には、1985年(昭和60)の富士通とアメリカIBM社のプログラム著作権をめぐる係争のほか、1997年(平成9)にスズキとインド政府が合弁会社のトップ人事で対立した事例、2011年(平成23)のスズキとフォルクスワーゲンの提携解消をめぐる争い、2013年の三菱重工業とアメリカの電力会社(カリフォルニア州)による原子力発電所の蒸気発生器をめぐる損害賠償争いなどがある。
[編集部]
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
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