日本大百科全書(ニッポニカ) 「土器製塩」の意味・わかりやすい解説
土器製塩
どきせいえん
専用の土器を用いて専業的に塩を生産する原始・古代の製塩法の一種。海水から食塩を手工業的に製するためには、鹹度(かんど)(塩分濃度)を高める採鹹(さいかん)(濃縮)作業と、水分を蒸発させる煎熬(せんごう)(塩焼き)との二つの作業工程を必要とし、さらに純度の高い精製塩を得るため再煎熬が加えられることがあった。煎熬用に鉄釜(てつがま)などが普及する以前には、そのために特製された、粗製だが内面を平滑にした器壁の薄い土器(製塩土器)が大量に用いられた。関東・東北地方の太平洋岸の一部では縄文時代後・晩期のものがあるが、本格的な土器製塩は弥生(やよい)時代中期に瀬戸内海の児島(こじま)付近で開始され、古墳時代中期以後、全国各地の海岸地帯に普及し、平安時代まで存続する。もっとも盛行したのは古墳時代後期(6~7世紀)である。その中心地であった備讃瀬戸(びさんせと)地方の製塩土器は、かつては師楽式(しらくしき)土器とよばれた。海岸から離れた内陸、ことに奈良・京都など古代の都城跡とその周辺からも製塩土器がしばしば発見されるのは、焼き塩された精製塩を生産地から運ぶ運搬容器として使用されたことを示しており、奈良時代(8世紀)前後のものがとくに多い。土器製塩の研究は原始・古代における社会的分業や生産力の発展を解明するうえで重要である。
[石部正志]
『石部正志著『製塩遺跡』(『地方史マニュアル5』所収・1977・柏書房)』▽『石部正志著『原始・古代の土器製塩』(『講座・日本技術の社会史 第2巻 塩業・漁業』所収・1985・日本評論社)』