土地保有(読み)とちほゆう(その他表記)tenure

翻訳|tenure

改訂新版 世界大百科事典 「土地保有」の意味・わかりやすい解説

土地保有 (とちほゆう)
tenure

一般的に土地(水その他人間にとって利用可能な自然物のいっさいを含む)に対して,特定の個人や集団が排他的な支配権をもつこと。この支配権が土地所有権として確立されるのは,私有財産制の完成する資本主義社会になってからであるが,それ以前の諸社会においても,土地の占取,用益処分等に関しさまざまな規制がなされており,特定の個人や集団が特定区域の土地を一定期間,持続的かつ排他的に利用する権利が認められていた。そこでまず,〈土地保有〉というタイトルのもとに,未開社会や小規模農民社会の土地をめぐる諸関係を概観する。

 採集狩猟経済の下では,多くの場合,親族・姻族関係によって結ばれた数家族がバンドまたはホルドと呼ばれる小集団を形成し,この集団が特定領域territoryを占有し,食料を求めてこの領域内を移動した。バンド成員であればだれでも領域内の土地を平等に利用することができたが,他のバンド成員による領域侵犯は厳しく排除された。しかし現存する採集狩猟民社会では,バンドによるテリトリーの共有の程度に関しさまざまな変異が見られる。例えば東部カナダのアルゴンキン諸族では,かつては複数家族からなるバンドが大型動物の狩猟地を共有していたが,白人との毛皮交易が開始されてからは,核家族が毛皮猟地の所有単位となりこの権利を父系的に相続するようになった。

 採集狩猟から作物栽培と家畜飼育を主たる生計維持手段とする経済への推移は,当然従来とは異なる土地と人間との関係を進展させた。このうち初期の焼畑耕作や塊根栽培の支配的な社会では,地味の衰えにともない数年ごとに耕地を移転する必要があるので,人々は特定区域の土地との恒久的関係を結ぼうとはしない。例えば北米インディアンのイロコイ諸族では,村落の土地は氏族共同体の所有であり,各家族は共同家屋に付属する庭畑やそれぞれ固有の農地の用益を認められているが,この場合の私的占取はその土地が利用されている限りにとどまり,土地の相続,売買,賃貸借はできない。

 これに対し水稲耕作などにより高度な定着農耕が行われる社会では,部族や村落による全体的土地規制の下で,なおかつ特定の土地に対する永続的私的占取が認められる。例えばスリランカシンハラ人の場合,森林は村落農民全体の共有であったが,宅地,庭畑は村民の私有地であった。さらに特定祖先に系譜的に連なる諸個人が特定耕地を共有し,それぞれの持分に応じて一枚の水田交替に耕作したり,土地条件の異なる複数の水田を一定順序で交互に耕作した。また水利条件も平等にするため各人の持分を耕地帯の各所に分散する村落もあった。だがいずれの場合にも占有権はあくまで各個人に属し,各人は何人にも拘束されず自由に,自己の権利を相続,売買,賃貸借することができた。
執筆者: 中世ヨーロッパにおいては,封建領主が国王から直接に土地を保有する形態と,農民が封建領主から土地を保有する形態とがある。国により,また時代により異なるが,イギリスの〈直封土地保有tenure in chief(あるいはtenure in capite)〉は前者にあたり〈騎士保有knight service〉等の〈軍役保有military tenure〉や〈鋤保有socage tenure〉がその主要なものである。後者すなわち農民の土地保有の場合にも,鋤保有ないし〈自由保有freehold〉(フリーホールダー)があるが,基本的形態は不自由農の〈農奴保有villain tenure〉や〈慣習保有customary tenure〉である。農奴保有というのは,農奴が領主に対する賦役を条件に土地を保有するものであり,慣習保有とは荘園の慣習にもとづく土地保有で,保有者は〈生産物地代〉ないし〈代金納地代〉支払の義務を負う。もともとそれは,〈荘園の慣習にもとづく〉という規定だけではなく,〈領主の意志による〉保有という規定を含んでおり,たとえばイギリスの〈謄本保有copyhold〉(コピーホールダー)は,その二つの規定をもつものであった。しかし,時代とともに両者が分離し,本来の慣習保有は,(1)領主の意志に従っていつでも保有地を取り上げられる〈任意保有tenancy at will〉と,(2)領主の意志が荘園の慣習によってある程度制限される〈慣習保有〉となった。〈世襲的謄本保有〉となると,法的にはともかく,実質的には〈自由保有〉とあまり違わなくなった。

 イギリスでは,イギリス革命(17世紀)によっても謄本保有は廃止されず,1922年の財産法Law of Property Actまで存続する。一方,国王と領主との軍役保有等の関係は革命以後なくなったので,革命によって残された自由保有は事実上の土地所有(権)となった。それにもかかわらず今日でも〈自由保有〉というのは,〈自由保有free socage tenure〉が,王政復古以後今日まで,国王を最終的な上級所有権者とし,ローマ法的土地所有権観念(法概念としての〈土地所有権の絶対性〉)を成立せしめていないからである。したがってイギリスでは,少なくとも法的には,〈近代的土地所有〉ですら〈所有権〉ではなく〈保有権〉であり,〈不動産権estates〉というのもその〈保有権〉の範囲内に設定されるさまざまな権利である。〈物的財産(権)real property〉の場合でも同様で,フランスやドイツ等とは異なり,その中に含まれるものは〈自由保有権〉であり,あるいは(それが存在する限りでは)〈謄本保有権〉である。
地主 →土地所有
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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