日本大百科全書(ニッポニカ) 「地域教育計画」の意味・わかりやすい解説
地域教育計画
ちいききょういくけいかく
地方自治体や一定地域の連合体が、当該地域の教育政策をたて、その目標を達成するために行う手続の総体をいう。第二次世界大戦前は教育の国家統制が強かったので、地域教育の成立する余地はほとんどなかった。戦後は、教育の意志決定の主体を地域の住民に置き、地方分権が教育行政の原則としてたてられ、「公正な民意により、地方の実情に即した教育行政を行うために(教育委員会法1条)」教育委員会制度が発足し、またアメリカ合衆国のコミュニティ・スクール(地域社会学校)の輸入もあって、埼玉県川口市、広島県本郷町(現三原(みはら)市)、兵庫県魚崎町(現神戸市)、静岡県庵原(いはら)村(現静岡市)などをはじめ、各地でさまざまな地域教育計画が立案、実施された。それらも戦後の復興と産業化の進展のなかでしだいに消滅したが1980年代には、高度経済成長の反省にたつ地方自治の見直しが始まり、「地方の時代」といわれ、改めて地域社会の教育的意義の確認によってたつ教育計画が強調されるようになった。
[岩下新太郎]
地域社会と教育
教育は対象の具体的生活を離れては考えられず、その生活は、一定の土地と結び付いて展開される生活共同体である「地域社会」にこそ根拠をもっている。改めて地域社会が問題にされるようになったのは、高度経済成長の進行によって惹起(じゃっき)された「地域社会」の崩壊を端緒としている。失われようとしている、あるいは新しくつくられようとしている地域社会の現状に即して、それを自分たちの生活する地域として活性化し、創造していく努力が必要となっている。そこでの教育が、地域の文化と伝統に学び、新たな文化を創造するものとなるように、地域全体を学習の場とし、教材化するような教育条件、教育システムをつくりあげるのが地域教育計画の究極のねらいとなろう。
[岩下新太郎]
課題
地域の急激な変貌(へんぼう)と旧来の生活態度・様式、地域社会の将来像と現実生活、の間のずれが顕著になり、親たちが子供にどのような教育をすべきかにとまどい、矛盾に悩むという問題が起こる。このような状況のなかから方向性をみいだす努力が、地域教育の責任機関である教育委員会、地域教育の組織者である教育長に求められる。そのためには、教育委員会が、地域の教育意志・教育実態についてきめ細かい資料をもつこと、地域の教育意志決定の主体であることの自覚をもって、地域の将来計画に関する審議に時間をかけること、教育長が専門的識見によって教育委員会、首長部局、学校、教育関係諸施設・団体に対してリーダーシップを発揮することができるよう教育委員会を整備、充実することが肝要である。
[岩下新太郎]
展望
地域教育計画充実への要請は、近年いっそう強くなってきている。各地方公共団体ごとに、家庭、学校、地域社会における教育・学習支援のための諸条件が整備され、また、生涯学習の推進整備計画として再体系化され、さらに、福祉に重点をおいた少子高齢化社会の需要に応じうる新しい地域づくり、町づくり計画の一環として位置づけられるようになるのが理想といえよう。
生涯学習推進のための総合的基盤整備計画は、活発な動きをみせている。しかし、こうして策定された計画が、予算上の制約等との関係で、はたしてどこまで実現できるのかということが、当面(とくに不況下で)の問題である。
[木村力雄]