フランスの詩人アルチュール・ランボーの散文詩集。1873年作。同年10月、ベルギーのブリュッセル、ポート書店にて印刷完了。しかし、自費出版の費用未払いのため、著者の手に渡ったのは見本の数冊のみ。残りの約500部は、死後10年の1901年、同書店倉庫より発見された。散文詩全9編の主題は、生、愛、見者の詩法を通じてのカトリックと西欧文明への対決。詩の発生の場が、西欧近代の引き裂かれた魂の修羅場にあることを証明するように、怒りと苦悩に彩られ、矛盾撞着(どうちゃく)に満ちたことばが強烈なエネルギーを放つ。同時に、詩句の美しい響き、演劇的構成、「序」の反逆から終章「訣別(けつべつ)」の新たな決意に至るまでの地獄の時間と、全章の外縁を流れる春から秋への客観的時間の対比の妙など、詩的意識のみごとな結晶といえよう。『地獄の一季節』『ある地獄の季節』の訳名もある。
[中安ちか子]
『渋沢孝輔他訳『世界文学全集55 地獄の一季節』(1981・講談社)』▽『小林秀雄訳『地獄の季節』(岩波文庫)』
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