場面緘黙(読み)ばめんかんもく

知恵蔵 「場面緘黙」の解説

場面緘黙

発声のための器官言語能力に障害がなく、家庭などの安心できる環境では話ができるにもかかわらず、学校など社会的な状況では他者と話せない症状が1カ月以上続くこと。特定の場所・状況になると、不安や緊張によって話せない。発症する割合は数百人に1人程度で、不安障害の一つとされる。大人になって克服することもあるが、大人になってから発症したり、話せる条件が狭まったりするケースもあり、原因や発症メカニズムは、はっきりと分かっていない。
話せない場面や、程度には個人差がある。学校生活において、登校したとたん教員や友達と話せなくなったり、友達とは少し話せるが、教員がいると話せなくなったり、体が動かせない緘動(かんどう)という状態になるケースや、母親以外とはコミュニケーションが困難で、職場や外出先では筆談をする例など、症状はさまざまである。
「精神障害の診断と統計の手引き(DSM)」によると「選択性緘黙」という名称で診断基準が設けられている。その内容は、①ある特定の状況(例えば学校のように、話すことが求められる状況)では、一貫して話すことができない。②疾患によって、学業・職業上の成績または社会的な交流の機会を持つことが阻害されている。③少なくとも1カ月以上続いている。④話し言葉を知らない、うまく話せないという理由からではない。⑤吃音(きつおん)症や声帯疾病自閉症スペクトラム障害統合失調症などではない、という5項目である。
原因については研究の過程にあるが、先天的な障害ではなく、虐待や過保護など親の教育方針が原因で発症するわけではないことが分かり、近年では「不安症や恐怖症の一種」と捉えられている。「不安になりやすい気質」などの生物学的な要因が根底にあり、そこに心理学的な要因、社会・文化的要因などが複合的に影響していると考えるのが一般的である。
教育現場などでは、目立った問題行動がないため、単に「おとなしい子」として見過ごされてしまいがちだが、うつ的症状や不登校などへとつながることもあるため、早期発見と支援が必要とされる。日本では当事者や経験者、保護者などの情報ネットワーク団体として任意団体の「かんもくネット」があり、臨床心理士などの専門家が活動している。

(若林朋子 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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