塩化スズ(読み)えんかすず(その他表記)tin chloride

改訂新版 世界大百科事典 「塩化スズ」の意味・わかりやすい解説

塩化スズ(錫) (えんかすず)
tin chloride

塩化スズ(Ⅱ)と塩化スズ(Ⅳ)とがある。

化学式SnCl2。金属スズを塩酸に溶かすか,塩化スズ(Ⅳ)の水溶液を電解還元して得られる。無水和物は無色の斜方晶系の結晶で,融点246.8℃,沸点623℃。2水和物SnCl2・2H2Oは無色の単斜晶系の結晶で,37.7℃で結晶水に溶けて塩酸と塩基性塩化スズ(Ⅱ)Sn(OH)Clに分解する。アセトンアルコールなどに溶ける。アルカリには一度水酸化物として沈殿するが,過剰のアルカリに溶けて亜スズ酸アルカリとなる。還元性が強い。空気によりいくらか酸化される。スズめっき還元剤,陽イオン重合触媒などに用いられる。

化学式SnCl4。無色の液体で,空気中で発煙する。融解した金属スズの上に,直接塩素ガスを作用させると得られる。融点-33℃,沸点114.1℃,密度2.229g/cm3(20℃)。水には発熱しながら溶け,徐々に加水分解し,二酸化スズSnO2コロイドとヘキサクロロスズ(Ⅳ)酸H2[SnCl6]の沈殿を生ずる。アルコール,四塩化炭素二硫化炭素ベンゼントルエンなどと任意の割合で混ざる。絹染物の媒染剤有機スズ化合物の合成原料イソブチレンなどの陽イオン重合触媒として工業的に重要である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「塩化スズ」の解説

塩化スズ
エンカスズ
tin chloride

】塩化スズ(Ⅱ):SnCl2(189.62).二塩化スズともいう.金属スズを融解し,塩素と反応させると無水物が得られる.無水物は無色の斜方晶系結晶.密度3.95 g cm-3.融点246.8 ℃,沸点652 ℃.水に易溶.空気中で加熱するといろいろな組成の黄色の塩化酸化スズ(Ⅱ)が得られる.市販のものは二水和物SnCl2・2H2Oで,密度2.71 g cm-3.融点37.7 ℃.金属スズを塩酸に溶かして濃縮すると析出する.無色の単斜晶系結晶.37.7 ℃ で結晶水中に溶けて塩酸と塩基性塩に分解する.アセトン,エタノール,エステル,氷酢酸,エーテル,ピリジンなどに可溶.中性の水溶液は加水分解して沈殿を生じやすい.アルカリにはいったん水和酸化物が沈殿するが,過剰のアルカリに溶けて亜スズ酸アルカリとなる.酸性の水溶液は強い還元作用を示し,有機化合物の還元剤,分析試薬として用いられ,工業的にはスズめっき浴,プラスチックの電気めっき添加剤,鏡の銀めっき,重合触媒,染色(抜染剤),インク消しなどに用いられる.[CAS 7772-99-8:SnCl2][CAS 10025-69-1:SnCl2・2H2O]【】塩化スズ(Ⅳ):SnCl4(260.52).四塩化スズともいう.融解した金属スズ上に直接塩素ガスを作用させると無色の液体として得られる.空気中で発煙する.密度2.23 g cm-3.融点-33 ℃,沸点114.1 ℃.水には発熱しながら溶けるが,徐々に加水分解し,二酸化スズのコロイドとH2[SnCl6]の沈殿を生じる.アルコール類,四塩化炭素,二硫化炭素,液体アンモニア,ベンゼン,トルエン,石油系炭化水素などと任意の割合でまざり,アンモニア,エーテルとは付加物をつくる.絹染色の媒染剤,有機スズ化合物の合成原料,イソブチレン,2-フェニルプロペンなどの陽イオン重合触媒,伝導性塗料,砂糖の漂白,陶磁器,青写真,せっけんなどに用いられる.[CAS 7646-78-8]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩化スズ」の意味・わかりやすい解説

塩化スズ
えんかすず
tin chloride

スズと塩素の化合物。酸化数Ⅱ、Ⅳのものがある。

(1)塩化スズ(Ⅱ) 二塩化スズともいう。スズを塩酸に溶かした溶液から二水和物SnCl2・2H2Oが得られる。二水和物を無水酢酸と混合すると無水塩が得られる。無水塩は水、エタノール、エーテルに易溶。二水和物は無色の単斜晶系結晶。融点37.7℃(分解)。水に溶けやすく、多量の水に溶かすと加水分解して塩基性塩が沈殿するが、塩酸を加えるとトリクロロスズ(Ⅱ)酸イオンSnCl3-を生じて溶ける。アルコール、酢酸エチル、氷酢酸などに溶ける。強い還元剤で、分析試薬、有機化学での還元剤、媒染剤、めっきなどに用いられる。

(2)塩化スズ(Ⅳ) 四塩化スズともいう。スズに直接塩素ガスを通しながら蒸留すると得られる。無色の発煙性液体。水に発熱して溶け、ゆっくり加水分解して酸化スズ(Ⅳ)のコロイドとヘキサクロロスズ(Ⅳ)酸H2SnCl6を生じる。有機溶媒に溶ける。媒染剤、縮合剤として、また有機スズ化合物の原料として用いられる。無水和物は代表的な陽イオン重合触媒の一つである。水溶液からは五水和物SnCl4・5H2Oが得られる。これは無色単斜晶系結晶。融点約60℃。19~56℃で安定。

[守永健一・中原勝儼]


塩化スズ(データノート1)
えんかすずでーたのーと

塩化スズ(Ⅱ)
  SnCl2
 式量    189.6
 融点    246.8℃
 沸点    623℃
 比重    3.95
 結晶系   斜方
 溶解度   55.4g/100g(水18℃)


塩化スズ(データノート2)
えんかすずでーたのーと

塩化スズ(Ⅳ)
  SnCl4
 式量    260.52
 融点    約-33℃
 沸点    112~116℃
 比重    2.2328

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩化スズ」の意味・わかりやすい解説

塩化スズ
えんかスズ
tin chloride

(1) 塩化スズ (II) ,塩化第一スズ,二塩化スズ  SnCl2 。無色,斜方晶系の結晶性固体で,融点 246.8℃,沸点 652℃,比重 3.95。水および極性溶媒に可溶。空気中では酸化され,不溶性のオキシ塩化物となる。芳香族ニトロ化合物の還元剤として染料製造上,および有機化学分野で重要。スズ化合物,スズ顔料,触媒,試薬,皮なめし剤として使われる。
(2) 塩化スズ (IV) ,塩化第二スズ,四塩化スズ  SnCl4 。比重 2.26,無色発煙性の液体。融点-33℃,沸点 114.1℃。水,アルコールなどに可溶。媒染剤,石鹸の色香の安定剤,有機合成の触媒などに使用される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「塩化スズ」の意味・わかりやすい解説

塩化スズ(錫)【えんかすず】

(1)塩化第一スズSnCl2。比重3.95,融点246.8℃,沸点623℃。水に溶ける無色の結晶。塩酸酸性溶液から得られるものは2水和塩で,比重2.70の無色柱状晶。還元剤,媒染剤。(2)塩化第二スズSnCl4。比重2.232,融点−33℃,沸点114.1℃。融解したスズに塩素を通じて得られる無色の液体。冷水,二硫化炭素に溶ける。湿った空気中では加水分解して発煙する。水溶液から得られる無色潮解性の結晶は5水和塩(19〜59℃で安定)。媒染剤,縮合剤,有機スズ化合物の原料となる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android