夜尿症(おねしょ)

EBM 正しい治療がわかる本 「夜尿症(おねしょ)」の解説

夜尿症(おねしょ)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 尿をためる臓器である膀胱(ぼうこう)の働きに問題のない5歳以上の子どもの夜尿(やにょう)(おねしょ)を夜尿症(やにょうしょう)と呼びます。5歳時で16パーセントにみられ、とても一般的な症状です。ほとんどの子どもが成長とともに自然によくなります。(1)(2)

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 夜の尿量が多い場合や、膀胱の排尿筋(はいにょうきん)の活動が高すぎる場合、よく眠れていない場合、膀胱に尿がたまったときに排尿を抑える働きをする神経の成長が追いつかない場合、尿を抑えるホルモン夜間に十分にでないことによる場合などがあります。また、これら生理・機能的な側面だけではなく、弟や妹が生まれるといった家庭環境の変化による心理的な要因が複雑に影響することも知られています。(3)~(5)

●病気の特徴
 5歳時で16パーセントにみられますが、10歳で5パーセントまでに減少し、12歳を超えるケースは2パーセントです。ほとんどが自然に消失します。このため、子どものおかれている状況によって、治療を始めるか、そのまま自然におさまるのを待つかを検討する必要があります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]子ども本人と保護者に、おねしょへの対応方法を学んでもらう(動機づけ療法、行動療法
評価]☆☆
[評価のポイント] 夜尿症の子どもはたくさんいます。まず、本人に「自分一人だけの問題ではない」こと、そして「いずれ治る」ことを伝え、おねしょシーツなどを利用して、おねしょをしても大事件にならないようにします。
 おねしょがあった日となかった日を記録するようにします。寝る前にトイレに行き、夜中に目が覚めたときは保護者がトイレに付き添います。
 おねしょがおこることは、本人のせいでも保護者のせいでもありません。おねしょをしてしまっても、叱ったり罰したりしないようにします。実際、濡れた衣類や布団自体が本人にとって大きな罰になっているので、それに追い討ちをかけてはいけません。また、自宅だからといって、おむつを使うことは避けます。(6)(7)
 おねしょがなかった日にカレンダーにシールを貼るといった簡単なごほうびをあげる、行動療法も行われます。(8)

[治療とケア]飲料を制限する
[評価]☆☆
[評価のポイント] なるべく午前中に水を飲み、午後遅い時間に飲む量は少し減らします。とくに、糖分の入った飲み物やコーヒーなどカフェインを含む飲み物は、尿を増やしてしまうため、夜間は飲まないようにします。

[治療とケア]夜尿アラーム療法
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 動機づけ療法や行動療法で夜尿症が解決できなかった場合、夜尿アラーム療法を試すことがあります。
 まず、着替えやシーツなど、おねしょをしたときの対処を子どもが自分でできるようにしておき、下着にセンサーをつけて寝ます。おねしょをするとセンサーが感知して、アラームが鳴ります。本人が起きてアラームを消し、トイレに行って残った尿をだし、着替えをしてシーツを交換します。アラームが鳴っても本人が起きない場合は、家族が起こします。夜間に何度も起きると睡眠不足になるので、2度目はセンサーをはずして朝まで寝ます。
 この方法の効果は6割と報告されています。ただし、本人が起きない場合、家族の協力が必要なため、2割程度が続けられないと報告されています。(9)

[治療とケア]薬物療法を検討する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] アラーム療法を用いても夜尿症が解決できなかった場合、内服薬を使うことを検討します。有効性が示されているのは、下垂体後葉ホルモンのデスモプレシン酢酸塩水和物です。(10)
 このほか、三環系抗うつ薬は効果がみられますが、副作用が強く、必ずしも勧められてはいません。また、今のところ、デスモプレシン酢酸塩水和物と三環系抗うつ薬以外で効果が認められた内服はありません。(11)


よく使われている薬をEBMでチェック

下垂体後葉ホルモン
[薬名]デスモプレシン(デスモプレシン酢酸塩水和物)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 動機づけ療法やアラーム療法の効果がみられなかった場合、膀胱の機能が正常で、夜間の尿量が多いときに使用します。1~2週間で効果があるか判断し、必要最低限の量にします。(12)


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
多くは自然に消失する
 通常、子どもの夜尿症は成長とともに消失します。いつ消失するのかは個人差があるので、治療を行うかどうかは症状の程度や本人の状況などによって検討します。

おねしょをしたときの対応方法を工夫する
 本人の負担にならない範囲で、夜の尿量を増やさないようにして予防するほか、おねしょシーツなどを利用したり、子どもが自分で着替えられるようにして、おねしょをしても対処しやすいように準備しましょう。おねしょをしても、叱ったり罰したりしないことも大切です。
 また、それらの方法で解決できなかった場合は、夜尿アラーム療法も検討します。

デスモプレシンを使用することがある
 夜尿アラーム療法で解決できなかった場合、薬物療法が行われることがあります。有効性が示されているのは、血液中の水分が尿に移行するのを妨げる働きのあるデスモプレシン(デスモプレシン酢酸塩水和物)です。1~2週間で効果があるか判断し、必要最低限の量にします。

(1)Nevéus T, von Gontard A, Hoebeke P, et al.The standardization of terminology of lower urinary tract function in children and adolescents: report from the Standardisation Committee of the International Children's Continence Society. J Urology. 2006:176:314
(2)日本夜尿症学会 ガイドライン作成委員会編. 日本夜尿症学会 夜尿症診療のガイドライン(平成16年6月). http://www.jsen.jp/guideline/index.htm アクセス日2015年4月1日
(3)Van Hoeck K, Bael A, Lax H, et al. Urine output rate and maximum volume voided in school-age children with and without nocturnal enuresis.J Pediatr. 2007 ;151:575-580.
(4)Watanabe H, Azuma Y.A proposal for a classification system of enuresis based on overnight simultaneous monitoring of electroencephalography and cystometry.Sleep. 1989 ;12:257-264.
(5)Rittig S, Schaumburg HL, Siggaard C, et al. The circadian defect in plasma vasopressin and urine output is related to desmopressin response and enuresis status in children with nocturnal enuresis.J Urol. 2008 ;179:2389-95.
(6)Marshall S, Marshall HH, Lyon RP.Enuresis: an analysis of various therapeutic approaches.Pediatrics. 1973 ;52:813-817.
(7)Schmitt BD.Nocturnal enuresis: an update on treatment.PediatrClin North Am. 1982 ;29:21-36.
(8)Caldwell PH, Nankivell G, Sureshkumar P. Simple behavioural interventions for nocturnal enuresis in children.Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 19;7:CD003637.
(9)Glazener CM, Evans JH, Peto RE. Alarm interventions for nocturnal enuresis in children.Cochrane Database Syst Rev. 2005 Apr 18 ;(2):CD002911.
(10)Glazener CM, Evans JH. Desmopressin for nocturnal enuresis in children. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(3):CD002112.
(11)Deshpande AV, Caldwell PH, Sureshkumar P. Drugs for nocturnal enuresis in children (other than desmopressin and tricyclics).Cochrane Database Syst Rev. 2012 Dec 12;12:CD002238.
(12)Glazener CM, Evans JH, Peto RE. Tricyclic and related drugs for nocturnal enuresis in children.Cochrane Database Syst Rev. 2003;(3):CD002117.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

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