日本大百科全書(ニッポニカ) 「大正新修大蔵経」の意味・わかりやすい解説
大正新修大蔵経
たいしょうしんしゅうだいぞうきょう
仏教の一大叢書(そうしょ)。『大正新脩(しんしゅう)大蔵経』とも書き、『大正蔵経』または『大正蔵』と略称される。1922年(大正11)にこの事業が着手されたのでこの名がつけられた。全100巻(本蔵85巻、目録3巻、図像12巻)からなり、高楠(たかくす)順次郎、渡辺海旭(かいぎょく)を都監(つかん)とし、小野玄妙(げんみょう)を中心とする多数の学者の協力のもとに、前後13年を費やし34年(昭和9)に完成された。中国、朝鮮、日本で刊行されたすべての大蔵経を質的にも量的にも凌駕(りょうが)した大蔵経の決定版であり、内外の学者が学術論文に仏典を引用する場合は、『大正蔵』の巻数、ページ数、段数を明示するのが通例である。
1巻から55巻までにはインド・中国撰述(せんじゅつ)のものを集め、56巻から84巻までには日本撰述のものを収めている。85巻には敦煌(とんこう)発見の古逸経と疑経(ぎきょう)を収める。本蔵(1~85巻)には3053部(重複を除くと2920部)1万1970巻の仏典を収録している。『大正蔵』は収録部数がきわめて多いこと、校訂が行き届いていることと、新しい研究に基づいて全体を31部門(インド・中国が24部門、日本が7部門)に分類編集した点などに優れた特色がみられる。校訂には高麗(こうらい)版を底本とし、宋(そう)・元(げん)・明(みん)の3本、さらには天平(てんぴょう)写経や隋唐(ずいとう)の古写経と対校して注記する。サンスクリットやパーリ原典のあるものは術語や固有名詞などに原語を注記して研究の便を図っている。85巻までの総ページ数は8万0634。目録は正しくは『昭和法宝総目録』といい3巻からなり、各種大蔵経の目録や有名寺院所蔵の一切経(いっさいきょう)目録、『大正蔵』をはじめ近代の仏典叢書の目録などを網羅する。『大正蔵』は1960年(昭和35)から再刊された。東西の仏教系大学が協力して『大正蔵』の索引を作成・刊行しており、インド・中国撰述についての索引はすでに完成し、利用されている。
[岡部和雄]