デジタル大辞泉 「貿易風」の意味・読み・例文・類語
ぼうえき‐ふう【貿易風】
[補説]名称は英語trade windの訳。原義は「通り道の風」で、帆船時代、常に同じ海路をとれるほど一方向から吹く風であることから名付けられたもの。
[類語]風・春一番・
熱帯に定常的に存在する偏東風。熱帯東風ともいう。地表面付近では亜熱帯高気圧から赤道低圧帯に向かって吹き込み、北半球では北東貿易風、南半球では南東貿易風となっており、とくに海洋上で顕著に卓越する。貿易風系は南北方向の鉛直面で、赤道近傍で上昇し亜熱帯高気圧圏内で下降する大規模な対流を形成しており、これを貿易風循環、またはこの循環の本質を明らかにしたイギリスのハドレーの名をとってハドレー循環という。貿易風の層は厚く8~10キロメートルまたはそれ以上に及ぶ。地表面近くの貿易風下層流(貿易風の呼び名を、この下層の風にだけ特定して用いることも多い)は比較的冷たく湿潤で、その上に高温乾燥の貿易風上層流が存在し、その境界の2~3キロメートルの高さに貿易風逆転とよばれる気温の逆転層がある。この構造はとくに亜熱帯高気圧の南東部で顕著である。貿易風の吹く海上で発生する積雲は、この逆転層に上限を抑えられ、ほぼ同じ大きさで比較的規則正しく群立して、独特の景観を形成する。これを貿易風積雲という。なお、貿易風という呼び名は、英語のtrade windの訳語であるが、tradeの原義は「通り道」であり、帆船時代に海上航路を可能にする、ほぼ一定の方向から吹く風の意味で、そのようによばれたものとされている。
[倉嶋 厚]
緯度30°付近にある亜熱帯高圧帯から西向きの成分をもって赤道に向かって吹くほぼ定常的な風で熱帯東風とも呼ばれている。北半球では北東の風,南半球では南東の風となっている。緯度30°から5°くらいの低緯度地方の地表において観測されるが,とくに海洋上で卓越する。貿易風帯では一般に下降気流が卓越するため,2~3kmの高度に気温の逆転層が現れ,これより上では大気は乾燥している。この逆転は亜熱帯高気圧の南東部で顕著で,南西部は南東部ほどではない。貿易風と大陸上の気温の高い気団との間につくる前線を貿易風前線という。
貿易風という名称は英語のtrade windの訳語であるが,tradeの本来の意味は〈道〉〈通り道〉であることから,繰り返し往復しよく知られている航路のことになり,転じて,このようなことが可能になるほど,一定の方向に吹く風のことをtradewindと呼ぶようになったものである。したがって貿易風よりは岡田武松によって一時用いられた〈恒信風〉の方が適当で,フランス語のalizéやドイツ語のPassatにも適合する。
執筆者:花房 竜男
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…年間を通じて明瞭に形成され,冬はその中心が少し南下する。この高気圧の南半分で吹く北東の風が大西洋の貿易風で,この気圧と風の系は広くメキシコ湾にまでのびている。【斎藤 直輔】。…
…北太平洋東部の海面上に中心をもつ大高気圧で,大西洋上のアゾレス高気圧に対応する半永久的な高気圧。この高気圧の南側から赤道へ流れる北東の気流が,太平洋の貿易風である。冬季は中心が少し東に移り,平均して西経145゜,北緯30゜付近にあり,その一部がマリアナ諸島をおおっている。…
…《エリュトラ海案内記》にはこの風の命名の由来が述べられている。のちには〈貿易風〉とも呼ばれるようになった。【重松 伸司】。…
…下層で赤道方向に向かう流れはコリオリの力により西向きの風を生じる。これが赤道偏東風で,別名貿易風とも呼ばれている。赤道偏東風は高さ8~10kmにも達し,その上の上層風は変動が大きい。…
…一般に雨は赤道の北側では6~10月に,南側では11~4月に多いが,季節的にも,地理的分布においても多様である。北半球ではハワイ諸島,南半球ではイースター島のある東太平洋上の亜熱帯高圧帯から赤道沿いの無風帯へ向けて吹き出す貿易風は,地球の自転により北半球では北東風,南半球では南東風となる。このため高い火山島の風上にあたる東斜面には雨が多く,風下は雨が少ない。…
※「貿易風」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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