地域の有力農民の門田(かどた)や神田などを,住民が総出で植える田植様式。本来,田植は一日で終えねばならぬとする信仰があり,近世以前は名主(みようしゆ)などの信仰的に重要な田は,一般の田植に先だって田の神を勧請(かんじよう)し大がかりに植えた。田主(たあるじ)と呼ばれる指揮者の統率のもとに,飾りたてた牛が特殊な技法で代(しろ)を搔(か)き,多勢の早乙女が信仰的に配列された多くの田植歌を唱和し,田人が腰太鼓,笛,すりささら,鉦(かね)などの楽器ではやした。途中〈ひるまもち〉とか〈おなり〉と呼ばれる神格化された女性が昼食を運び,田の神とともに供応を受けた。田植自体を労働というより神事として考え,終了後は稲の豊穣を願って性の解放などもあった。中国地方や四国の山間部では近年までその様式が残り,囃子(はやし)田,花田植,太鼓田などと呼ばれたが,当日には近隣から多くの牛遣いや見物が集まり,酒食がふるまわれた。現在広島県山県郡,安芸高田市や島根県の旧那賀郡などにその様式が残り,伝承のためにときどき行われる。なお中部,北陸地方では田植じまいや田植盛りの日を大田植と称し,田の神祭や酒宴を開いたし,新潟県刈羽郡では最も多くの田植をする日や大部分の田植が済んだ日を称したなど意味が分化した地方もある。
→囃子田
執筆者:山路 興造
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このため田植は1日で済ますものといわれ,多数の労働力が必要であった。〈大田植(おおたうえ)〉〈花田植〉などと呼ばれる大規模な中国地方の田植行事は,神祭りと共同作業の要素を今に伝えている。農家の経営形態の変化に伴い〈ゆい〉や〈田植組〉などの相互扶助の組織も生まれた。…
…太鼓,すりささら,笛,銅鈸子(どびようし)などで囃しながら行う田植行事。現在中国地方の山間部に残り,地方によりサゲ田,田囃子,花田植,大田植などの名で呼ばれる。古くは全国的に行われ,名主(みようしゆ)の門田(かどた)や,地主の大田,神社の神田などの特殊な規模の大きな田植で見られた。…
※「大田植」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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