サンスクリットMaheśvara(摩醯首羅天(まげいしゆらてん))の訳。ヒンドゥー教の最高神格であるシバ神Śivaが仏教にとり入れられて護法神となったもの。十二天の中の一尊である伊舎那天(いしやなてん)も密教に入った摩醯首羅天である。自在天,自在天王ともいう。その形像については諸説があり,三目二臂(にひ)像(《十二天供儀軌》),三目四臂像(《迦楼羅及諸天密言経》),三目八臂で白牛に乗る像(《大智度論》)などがあり,三目八臂像は図像集の《図像抄》や《覚禅抄》に描かれている。なお《十二天供儀軌》とは異なる二臂像が,胎蔵界曼荼羅の外金剛部院に描かれる。赤黒色の身体で青黒色の水牛にのって,左手に三鈷戟(さんこげき)をとり,右手は肘を立て拳を作り人差指を立てる。単独で信仰・造像されることはなかった。
なお,大自在天が天界で諸種の伎楽を行うとき,髪際から伎芸に優れた美しい一人の天女が出現したことが経軌に記される。大自在天女,伎芸天と呼ばれ,福徳を祈る伎芸天法の本尊として尊崇され,また諸芸成就の尊像として信仰された。《摩醯首羅大自在天王神通化生伎芸天女念誦法》その他によると,形像は天衣,瓔珞(ようらく),鐶釧(かんせん)などの厳身具を着け,左手は掌を上に向けてその上に天華を捧げ,右手は下げて裙(もすそ)をつまむ姿勢である。秋篠寺に伎芸天であるとの伝承をもつ木造立像(重要文化財)が所蔵されるが,頭部以外は鎌倉時代の補作で,当初の形像は不明である。礼拝像としての伎芸天像はほとんど知られていないが,明治時代に木彫界で活躍した竹内久一(きゆういち)(1857-1916)が1893年シカゴ万国博覧会に出品した作品に《伎芸天像》の大作がある。
執筆者:関口 正之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教の神。サンスクリット語のマヘーシュバラMaheśvara(大主宰神の意。摩醯首羅(まけいしゅら)と音写)の訳。元来はヒンドゥー教の主要な神の一つで、ヒマラヤ山脈中のカイラーサ山に神妃パールバティーと住むシバ神の呼称である。密教に取り入れられて十二天の一となり、胎蔵界曼荼羅(たいぞうかいまんだら)の外金剛部に属し、ありとあらゆる世界すなわち大千世界の主とされた。崑崙山(こんろんざん)上の美しく飾られた宮殿に住み、60の天神に守護され、百千の天女に取り巻かれているという。その像は三目八臂(はっぴ)で天冠を頂き、三叉(さ)の戟(げき)を手に持ち、白牛に乗っているのが普通である。
[前田式子]
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…これがいわゆるヒンドゥー教の神話である。ヒンドゥー教の主神はブラフマー(梵天)とシバ(大自在天)とビシュヌ(毘瑟笯,毘紐)である。ブラフマーはウパニシャッド哲学の最高原理ブラフマン(中性原理)を神格化したもので,宇宙創造神,万物の祖父(ピターマハ)として尊敬されるが,他の2神のように幅広い信仰の対象となることはなかった。…
…ビシュヌやブラフマー(梵天)と並ぶヒンドゥー教の主神。《リグ・ベーダ》のルドラと同一視され,ハラHara,シャンカラŚaṃkara,マハーデーバMahādeva(大天),マヘーシュバラMaheśvara(大自在天)などの別名を有する。彼はまた世界を救うために,太古の〈乳海攪拌〉の際に世界を帰滅させようとする猛毒を飲み,青黒い頸をしているので,ニーラカンタNīlakaṇṭha(青頸(しようきよう))と呼ばれる。…
※「大自在天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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