西大寺の北にある。単立寺院。阿縛狗山と号し、本尊は薬師三尊像。光仁・桓武両天皇の勅願により、宝亀一一年(七八〇)善珠の開基と伝える。「続日本紀」同年六月五日条に「勅、封一百戸永施秋篠寺」とある。しかしこの秋篠寺が現秋篠寺をさすものか否かは不明。京北班田図(西大寺蔵)には北京二条一里二七坪に「内経寺」「南大門」、三四坪に「金堂」、三四坪から三五坪にかけて「香水井」、二条二里三坪に「講堂」の文字がみえ、ほぼこれが現在の秋篠寺の寺地にあたっている。同班田図によると
秋篠寺の寺領については、前述の宝亀一一年に封戸一〇〇戸が勅施入されたこと、弘仁三年(八一二)に東大寺の封戸のうちを割いて封戸一〇〇戸が施入されたことが知られる(日本後紀)。後者の封戸施入はおそらく一時期廃絶していた封戸一〇〇戸を新たに施入したもので、前の一〇〇戸を合せるものではないであろう。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
奈良市にある寺。もと法相宗であったが,真言宗,浄土宗(西山派)を経て,現在は単立寺院。創建年次については776年(宝亀7)と780年の2説がある。もと内経寺といわれたが,秋篠の地にあり,秋篠寺と称せられるに至った。後世,秋篠寺の善珠といわれた興福寺の名僧善珠を開山とする。780年に寺封100戸,798年(延暦17)に大和国公田24町が施入され,812年(弘仁3)3月に引き続いて100戸が寄せられるなど,光仁・桓武・嵯峨3帝の帰依をうけた。1135年(保延1)6月に講堂を残して罹災し,平安時代末期には西大寺との間に秋篠山の帰属をめぐり論争が生じ,以後2世紀にわたって争われた。その間大元帥法(だいげんのほう)に用いられる香水は,当寺の閼伽井(あかい)(香水閣)より汲みとられて,東寺に運ばれて用いられた。鎌倉時代には講堂が大修理されて本堂となり,罹災した諸仏も修理されて安置されている。ことに伝伎芸天立像は乾漆造の頭部をのこし下半身を木造で修理されて今に伝わっている。
執筆者:堀池 春峰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
奈良市秋篠町、近畿日本鉄道大和西大寺駅の北西1.2キロメートルにある単立寺院。780年(宝亀11)光仁(こうにん)、桓武(かんむ)両天皇の勅願によって、善珠(ぜんじゅ)僧正が開基したと伝える。勅封100戸を受けたこの寺は、法相(ほっそう)、因明(いんみょう)の学に通じた善珠を中心として僧房1000を数える大寺に発展し、西大寺と併称される学門寺であった。寺の西側茂みに残る8個の礎石は五重塔の東塔遺跡であり、その往時の勢威がしのばれる。京都遷都後は衰微し、あまつさえ1135年(保延1)以来数度の兵火にかかって、わずかに講堂(現在の本堂)を残すのみとなった。創建当初は法相宗であったが、834年(承和1)真言宗醍醐寺(だいごじ)派に転じ、さらに近世には浄土宗西山派となり、現在は単立寺院となっている。
本堂(国宝)は創建当初の優美な結構を誇っているが、鎌倉時代の修理によって、桁行(けたゆき)5間、梁間(はりま)4間、単層、四注造(しちゅうづくり)本瓦葺(ほんかわらぶ)きの金堂造となっている。入唐(にっとう)僧常暁(じょうぎょう)大徳が大元帥明王(だいげんすいみょうおう)を示現したという故事にちなむ霊井の香水閣があり、庶民の絶えざる信仰を得ている。本寺には、罹災(りさい)にもかかわらず優れた尊像が多く残され、わけても伎芸天立像は美しい姿で知られ、ほかにも梵天(ぼんてん)立像、帝釈天(たいしゃくてん)立像、十一面観音立像(いずれも国の重要文化財)などの優品がある。
[里道徳雄]
奈良市秋篠町にある単立の寺。776年(宝亀7)または780年の建立で,光仁天皇の勅願という。当初は内経寺(ないきょうじ)と称したらしい。780年,寺封100戸が施入された。興福寺の高僧善珠(ぜんじゅ)が開基とされ,「秋篠寺の善珠」と称された。善珠の護持をうけた安殿(あて)親王(平城天皇)は善珠の死後,その肖像を当寺に安置。光仁・桓武両天皇の庇護をうけ,桓武天皇の五七日の法要は当寺と大安寺で営まれた。812年(弘仁3)寺封100戸が施入されるなど平安時代に繁栄したが,1135年(保延元)講堂を残して焼亡。鎌倉時代には西大寺と寺領や用水をめぐって争った。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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