日本大百科全書(ニッポニカ) 「大足石刻」の意味・わかりやすい解説
大足石刻
だいそくせっこく
中国、四川(しせん)省の南東部、大足県にある約40か所の石刻群の総称。1999年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。大足県県城の北方に北山・宝頂山・舒成(じょせい)岩、南西方に妙高山・石篆(せきてん)山・仏安橋・七拱(しちきょう)橋・玉灘(ぎょくたん)、南方に南山、南東方に石門山などの石窟(せっくつ)や石刻群が現存する。このうち代表的な石刻は、晩唐の892年(景福1)に昌州刺史(しょうしゅうしし)の韋君靖(いくんせい)が開いたといわれる北山石窟と、大足出身の僧趙智鳳(ちょうちほう)が南宋(なんそう)の1179年(淳煕6)から70年間にわたって築いた宝頂山石刻にみられる。これらの石刻群はいずれも仏教を主題にしているが、なかでも宝頂山石刻は他の石窟形式から抜け出した特色をもち、あたかも岩山に彫られた長巻の一大絵巻を見るような迫力がある。また伝統的な主題にこだわらず、儒教や道教の影響だけでなく、柳居士(りゅうこじ)のようなこの地方の特異な伝説を扱うなど、土地に根ざした生活感にあふれた点にも特色があり、中国北方では石窟芸術の衰退をみるころの異彩を放つ文物といえる。
[永井信一]
『中国外文出版社編『大足石刻芸術』(1981・美乃美)』