中国北西部の黄河上流域にある省。万里の長城の西端である
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中国西北部の省。略称は〈甘〉または〈隴(ろう)〉。西は新疆ウイグル自治区,南西から南は青海,四川,東は陝西の諸省,北は内モンゴル自治区と寧夏回族自治区に隣接し,面積約45万4000km2。人口2512万(2000),省都は蘭州。7地区,2自治州,13市(うち県級市8),60県,7自治県から成り(1994年末),漢族のほか回,チベット,東郷,裕固,保安,モンゴルその他の諸民族が居住している。
この地は,北にモンゴル高原,東に黄土高原,南西に青蔵高原などを控え,省内で最低の西部の盆地でも標高1000m以上である。モンゴル高原縁辺部には合黎,竜首などの山脈が,青蔵高原縁辺部には青海との省境を成す標高3000m級の祁連(きれん)山脈が,それぞれほぼ北西~南東方向に走り,その間に甘粛(河西)回廊と呼ばれる長さ約1000km,幅数km~100kmの平地がある。省南西部には西傾,岷山(みんざん)などの山脈が走り,南東部からは黄河と長江(揚子江)の分水嶺を成す標高2000~3000mの秦嶺山脈が東へのびている。また,中央部の寧夏回族自治区との境を六盤山脈が南北に走るが,これがしだいに低くなって東部の黄土高原へとつづく。
黄河は青海省に発して東流し,一度,甘粛省南西部へ入ったのち,屈曲してまた青海省へ入り,北そして東へ流れて再び甘粛省へ入る。この地では洮河(とうが),湟水などを合わせながら北流して寧夏回族自治区へと入るが,その間,蘭州付近などに流域平地を形成する。また,長江支流嘉陵江の上流にあたる白竜江は南東部から出て南流し,黄河支流の渭河は,やはり南東部の鳥鼠山に発して東へ流れる。そのほか,祁連山脈から北流してモンゴル高原に入る内陸河川として,弱水,疏勒河などがある。
気候は大陸性で,気温の年較差は25~30℃もある。1月の平均気温は北西部で-10~-12℃,南西部で-8℃前後,南部で0~2℃,7月のそれは南西部が12℃前後と少し低いほかは,北西部で20~22℃,南部で24℃前後である。年降水量は東部で500~600mm,南部で600~900mm弱であるが,北西部では200~300mmであり,回廊北西端では100あるいは50mm以下と非常に少なくなる。
この地方は古く秦代には,黄河と蘭州付近でこれに合流する洮河の線が漢族文化圏の北西境であったが,漢代,武帝が回廊地帯を支配下に収め,河西四郡といわれる武威,張掖など四つの郡を置いた。唐代にはこれは隴右道と称したが,しかし,この地域における漢,モンゴル,チベットなど諸族間の争いが絶えず,8世紀にはチベット族の吐蕃が回廊地帯を支配したり,11~13世紀にはタングート族の西夏が今日の甘粛省の大半をその勢力下に収めたりした。その後,西夏を滅ぼした元朝は,ここを陝西行省としたが,明代をへて清代の1666年(康熙5)その西部が甘粛省として分離し,蘭州を省都とした。さらに,1882年(光緒8)そこから新疆省が分離,1928年には寧夏,青海の両省が分かれた。解放後は内モンゴル自治区や寧夏回族自治区との間に合併・分離などによる若干の境域の変化を伴いつつ今日に至っている。
甘粛省は一般に降水量は少ないが,古くから水利施設を利用しての農業がみられ,とくに解放後は山上の農地への導水も含めての灌漑用水路や貯水池などの建設,土砂流失の防止などに努力が注がれており,蘭州盆地,渭河流域,洮河流域のほかに甘粛回廊のオアシスなどでも農業が盛んにおこなわれている。主な産物としては,この地の穀物総生産の30~40%を占める蘭州盆地や渭河平野のコムギのほか,渭河平野のトウモロコシ,敦煌盆地の綿花があげられ,また,コウリャン,アワ,キビ,青稞(ハダカエンバク),ジャガイモ,ゴマ,蘭州や武威などのスイカやマクワウリ,同じく蘭州のブドウ,ナシ,タバコ,南東部の養蚕などがある。牧畜は祁連山麓や回廊地帯を主とする草原でおこなわれており,ウシ,南西部の〈河曲馬〉で有名なウマ,ラクダ,羊などが飼育され,羊毛,および品質中国一というラクダ毛,羊皮,羊腸衣などが産出される。なお,祁連山脈や白竜江上流域の森林資源も重要であり,また,特産物として甘草,大黄,人参その他の薬材があげられる。地下資源は豊富で,玉門の石油,祁連山脈の鏡鉄山の鉄鉱石,中西部の石炭のほかに,ニッケル,鉛,亜鉛,銅などが産出する。
解放後,甘粛省の工業は大きな発展をみせたが,その中心は蘭州である。ここには,石油精製,鉄鋼,金属冶金,石油関係などの機械製造,石油化学,製紙,毛紡織,食品その他の各種工業が発達している。また,玉門の石油,嘉峪関(かよくかん)の鉄鋼,金昌のニッケル,天水の機械,紡織,食品,平涼や床陽の紡織などの工業がみられる。なお,伝統工芸品として,祁連山脈の玉石を原料とした酒泉の〈夜光杯〉などの玉製品や天水の漆製品が知られている。黄河の蘭州上流にある劉家峡には,長さ840m,高さ147mのダムが建設され,1225MWの出力を有する大型水力発電所と上流へ65kmもひろがる大人造湖がある。
交通面では解放後の鉄道建設にめざましいものがあり,蘭州を中心にして,陝西,河南地方から遠く黄海の連雲港にまでのびる隴海鉄道,北西の新疆地方への蘭新鉄道,北は内モンゴルの包頭(パオトー)への包蘭鉄道,西の青海省西寧にのびる蘭青鉄道がみられ,1995年には蘭新鉄道の武威~ウルムチ間の複線化が完成した。また,自動車道路も蘭州を中心に放射状に発達して,他省の主要都市に通じている。また,蘭州から北京,上海,ウルムチその他の国内主要都市や酒泉,床陽などの省内の都市への航空路もみられる。
甘粛省の主要都市としては,黄河に面する大都市で,新興工業都市,交通要地の省都蘭州のほかに,南東部最大の工業都市天水,甘粛回廊の玉門,嘉峪関,酒泉,敦煌などがあげられる。
この地の名勝古跡などで最も有名なものは敦煌の石窟であろう。この敦煌莫高窟,一般には千仏洞の名で知られるこの地の490余の洞窟群は,4~14世紀にかけて掘られた石窟寺,すなわち横穴式の寺院であるが,そこにある大量の壁画と仏像は,中国の歴史や美術にとっては貴重な資料であって,この石窟は中国三大石窟芸術宝庫の一つといわれている。また,天水には,約7000余の仏像がある麦積山石窟と高さ27mの石仏座像のある永靖炳霊寺石窟とがあり,これらはいずれも約1500年の歴史を有している。そのほか,甘粛回廊にある嘉峪関は,明代14世紀後半に万里の長城の西端に建設され,〈天下雄関〉と称せられた関城である。なお,蘭州の五泉山は,山上に五つの泉のある観光地である。
執筆者:小野 菊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「カンスー(甘粛)省」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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