日本大百科全書(ニッポニカ) 「天吹」の意味・わかりやすい解説
天吹
てんぷく
鹿児島県に伝わる郷土楽器で、尺八によく似た無簧(むこう)(ノン・リード)の縦笛。平たく曲がったホテイチクの根に近い部分でつくり、管の長さ約30センチメートル、外周は7~8センチメートルで、尺八に比べ細く短い。前面4孔、背面1孔の5孔3節であることから、現行尺八の古型の一つとも考えられるが、管尻(かんじり)に近い第1節を節抜きせずに小孔をあける点、また歌口の切り方など、尺八とは著しく異なる。尺八型の歌口もつくられたらしいが、主流は息を集める部分を皮目だけ残して内側からえぐる、つまり中国の洞簫(どうしょう)型である。製管法は原始的で、管長、節、指孔位置なども、製管者によって各管各様である。しかも、指孔は管長ではなく、管の外周の長さで決めるため、安定した音律を得るのが困難である。戦国時代(16世紀末)薩摩(さつま)武士が戦陣のつれづれに愛好したと伝えられるが、伝来は不明。明治以降は急速に衰微、唯一の伝承者となった加治木(かじき)町(現、姶良(あいら)市)在住の白尾國利(しらおくにとし)が1981年(昭和56)天吹同好会を発足させてその伝承保存に努めている。『シラベ』『ツツネ』『タカネ』など、数分の短い楽曲7曲が伝承される。
[月溪恒子]
『天吹同好会編・刊『天吹』(1986)』