天疱瘡(読み)てんぽうそう(英語表記)pemphigus

翻訳|pemphigus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

天疱瘡
てんぽうそう
pemphigus

代表的な水疱皮膚疾患。大小種々の,概して大型の水疱が皮膚表面に多発する疾患をいう。厚生労働省指定の難病の一つで,一種の自己免疫疾患と考えられる。臨床所見により次の4型に大別される。 (1) 尋常性天疱瘡 天疱瘡のなかで最も多い。皮膚に大小の水疱が多発する。水疱はやがて疱膜が容易に破れて,びらん面をつくる。また一見,健康にみえる皮膚を強くこすると,その部に一致して水疱や表皮剥離が起きる。これをニコルスキー現象という。口腔粘膜も侵され,飲食物の摂取がむずかしくなる。 (2) 増殖性天疱瘡 (1) の亜型。まず水疱が発生し,破れてびらん面をつくるが,のちに表皮の増殖性変化が起る。口や肛門周囲,陰股部,わきの下などに好発する。 (3) 落葉状天疱瘡 剥離性天疱瘡ともいう。全身に小水疱が多発するが,すぐ破れてびらん面をつくり,乾燥して痂皮ができて葉状になって落屑する。 (4) 紅斑性天疱瘡 (3) の亜型。セニア=アッシャー症候群ともいう。顔面に円形状の紅斑性狼瘡に似た皮疹ができるのが特徴的で,そのほか (3) と同じように胸,背に小水疱ができて容易に破れてびらんを形成する。体の中心部にびらん性膿痂疹様皮疹,脂漏性皮膚炎あるいは乾癬様皮疹が多発する。

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家庭医学館の解説

てんぽうそう【天疱瘡 Pemphigus】

[どんな病気か]
 自己の体内の組織やたんぱくを自己以外の異物ととらえて攻撃するたんぱく体を自己抗体(じここうたい)といい、その結果おこる病気を自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)といいます。
 天疱瘡は代表的な自己免疫性の水疱症(すいほうしょう)です。健康な皮膚に、何のきっかけもないのに突然、水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)がたくさんできる病気で、多くの種類があります。
 この病気は、血液(血清(けっせい))に含まれるIgG(免疫グロブリンG)の抗表皮細胞間抗体(こうひょうひさいぼうかんこうたい)というたんぱく体が皮膚細胞のある成分を攻撃、その接着面を溶かして水ぶくれ状態にすることでおこること、その成分とは皮膚細胞を接着しているデスモソーム(細胞間橋(さいぼうかんきょう))の構成成分(デスモグレイン1および3)であることがわかってきました。
 天疱瘡は尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)と落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)とに大別されます。通常、尋常性天疱瘡のほうが落葉状天疱瘡より重症で、かつては致死的とされていましたが、現在は治療法が開発され、治るようになっています。
[症状]
 尋常性天疱瘡は全身、とくに鼠径部(そけいぶ)、腋窩部(えきかぶ)など皮膚が擦(こす)れるところにやわらかい水疱と治りにくいびらんができます。びらんは口腔内(こうくうない)にできることもあります。
 落葉状天疱瘡は、口腔内を除くからだ全体に小さな水疱ができるものです。水疱がすぐに破れ、乾燥してはがれ落ちるのでこの名があります。
[原因]
 自己免疫性皮膚疾患の多くは血液中の自己抗体が皮膚細胞の成分を攻撃しておこることがわかってきました。本来、自分の体内の成分には免疫反応がおこらないのに、そのしくみがどうして崩れて自己抗体ができてしまうのかについては、まだよくわかっていません。そのため、特別な予防法もまだありません。
[検査と診断]
 皮膚の細胞を少し切り取って顕微鏡で検査してみると、尋常性天疱瘡では基底層(きていそう)の上に、落葉状天疱瘡では表皮上層角層(ひょうひじょうそうかくそう)の下に棘融解性(きょくゆうかいせい)の(棘細胞が溶けたような)水疱がみられます。蛍光抗体法(けいこうこうたいほう)という検査で皮膚や血清中にIgG(免疫グロブリンG)抗表皮細胞間抗体があれば診断がつきます。
[治療]
 副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(プレドニンなど)の内服療法が中心です。一般には、入院して、プレドニンならば1日30~60mgが使用されます。落葉状天疱瘡のほうが尋常性天疱瘡より少量ですみます。
 重症の場合は、副腎皮質ホルモンが増量されるか、免疫反応を抑える薬(シクロスポリン剤がよく効きますが、まだ保険で使えません)と血漿交換療法(けっしょうこうかんりょうほう)(人工透析の「血漿交換法」)とが併用されます。副腎皮質ホルモンには副作用もあるため、注意しながら治療が行なわれます。
[日常生活の注意]
 治るには時間がかかります。主治医の治療方針をよく守り、根気よく治療を続けることがたいせつです。自分の判断で中止してしまったりすると、再発をくり返し、重い副作用をひきおこすことがあります。

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世界大百科事典 第2版の解説

てんほうそう【天疱瘡 pemphigus】

全身に大小さまざまの水疱を生ずる疾患を,皮膚科では古くから天疱瘡と呼んでいた。しかし現在では,同様の症状を呈しても,原因の明らかなもの(たとえばブドウ球菌感染)は除いて,〈原因不明のもので慢性に経過し,全身に生ずる大小の水疱を主徴とする疾患で,皮膚に対する自己抗体を有する皮膚疾患〉を天疱瘡と定義している。なお,天疱瘡ときわめて類似する皮膚症状を示すが,その本態が異なる水疱性類天疱瘡,疱疹状皮膚炎,妊娠性疱疹,家族性慢性良性天疱瘡,良性粘膜類天疱瘡は,ここでいう天疱瘡とは別疾患である。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

天疱瘡
てんぽうそう

全身に広く水疱を生ずることを特徴とする疾患で、自己免疫疾患と考えられており、特定疾患(難病)に指定されている。指頭で摩擦するような機械的刺激によって、一見健康そうな皮膚の表層がはがれ、表皮組織が裂けたところが水疱となる。その表皮の裂け方や臨床症状などから、尋常性天疱瘡、増殖性天疱瘡、紅斑(こうはん)性天疱瘡、落葉状天疱瘡などと分類されている。いずれも病期には血中に天疱瘡抗体が証明されるが、副腎(ふくじん)皮質ホルモンによる治療で寛解が期待される。

[上田由紀子]

補説

なお、天疱瘡という疾患名には「疱瘡(ほうそう)」という漢字表記が含まれるが、天然痘(てんねんとう)の俗称である「疱瘡」とは、まったく異なるものである。天疱瘡は、前述のとおり、自己免疫性の皮膚疾患と考えられ、遺伝、またウイルスによる感染性はない。2008年(平成20)現在日本全国の患者数は、厚生労働省研究班の調査によれば、3000~4000人程と推定される(難病情報センター資料による)。一方、「疱瘡」または「痘瘡(とうそう)」とも称される天然痘は、天然痘ウイルスを病原ウイルスとする強力な感染症であり、種痘(しゅとう)の普及以前は、非常に恐れられた。日本では、天然痘が根絶されて久しく、患者はいない。

[編集部]

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内科学 第10版の解説

天疱瘡(口腔粘膜・舌の疾患)

(1)天疱瘡(pemphigus)
概念
 皮膚・粘膜に生じる自己免疫性水疱性疾患で,表皮あるいは上皮内に水疱を形成する.尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris),落葉状天疱瘡,およびその他の3型に大別される.
尋常性天疱瘡
臨床症状
 天疱瘡の中の多くはこの型で,疼痛を伴う難治性のびらん,潰瘍で口腔粘膜に初発する頻度が高い.病変は粘膜に広範に生じ,食事は疼痛のために困難となる.
病因・病態生理
 IgG自己抗体が上皮細胞間接着因子デスモグレイン3(DSG3)に結合し,接着機能を障害するために水疱が形成されると考えられる.
検査成績
尋常性天疱瘡抗原蛋白であるDSG3が血中高値となる.
治療
 栄養管理を行ったうえで,副腎皮質ステロイド薬局所あるいは全身投与により治療する.[高戸 
■文献
榎本昭二,他編:最新口腔外科学,第4版,医歯薬出版,東京,2000.玉置邦彦総編集:最新皮膚科学大系第17巻 付属器・口腔粘膜の疾患,第1版,中山書店,東京,2002.

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六訂版 家庭医学大全科の解説

天疱瘡(尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡)
てんぽうそう(じんじょうせいてんぽうそう、らくようじょうてんぽうそう)
Pemphigus (Pemphigus vulgaris, Pemphigus foliaceus)
(皮膚の病気)

どんな障害か

 天疱瘡は普通、前ぶれ(前駆症状)なく、健康な皮膚にいろいろな大きさの水ぶくれ(水疱(すいほう))ができる病気です。大きなびらんをつくるタイプの尋常性天疱瘡と、小さな水疱ができて落ち葉のような落屑(らくせつ)になる落葉状天疱瘡があります。

 尋常性では口のなかなどの粘膜も侵されることがほとんどですが、落葉状では粘膜は侵されないほうが多いとされています。

 副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)薬の登場により、死亡率は劇的に改善された病気ですが、今でも死亡率は尋常性では5~10%あり、油断のできない病気です。

原因は何か

 原因は、患者さんの血液のなかに含まれる免疫グロブリンという蛋白質の一部です。免疫グロブリンは、本来はウイルスやばい菌と闘うために私たちの体のなかにある蛋白質ですが、その一部が自分の皮膚と闘いだすために皮膚が傷んでしまいます。

 具体的には、尋常性天疱瘡では皮膚のデスモグレイン(細胞と細胞をつなぐ蛋白質)3を、落葉状天疱瘡では皮膚のデスモグレイン1を攻撃します。

症状の現れ方

 尋常性では、皮膚に突然水疱ができて、すぐに破れてびらん(ただれ)になります。びらんは治りにくく、触ると痛みがあります。おおよそ半分の患者さんでは、口のなかの治りにくいびらんで始まるとされます。

 落葉状では、尋常性に比べて水疱が小さく乾きやすいので、皮膚に木の葉がついたように見えることがあります。普通は体中にできます。

検査と診断

 診断では、厚生労働省が定めた診断基準が参考になります。以下に診断基準を抜粋しますが、わかりにくいのでカッコ内に解説を入れます。

①臨床的診断項目

a.皮膚に多発する破れやすい弛緩性(しかんせい)水疱(水疱がたくさんできること)

b.水疱に続発する進行性、難治性のびらんないし鱗屑痂皮性局面(りんせつかひせいきょくめん)(水疱が治りにくいびらんになること)

c.口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱、びらんないしアフタ性病変(口のなかに痛みがあるびらんができること)

d.ニコルスキー現象(強くこすると、そこに水疱ができること)

②病理組織学的診断項目(皮膚をとって検査する。皮膚生検という)

a.表皮間細胞間(きょう)解離(かいり)棘融解(きょくゆうかい))による表皮内水疱

③免疫組織学的診断項目(aは②とは別にもうひとつ皮膚をとる検査です。bは血液をとる検査)

a.病変部ないしは外見上正常な皮膚、粘膜部の細胞膜(間)部に免疫グロブリンG(IgG)(時に補体(ほたい))の沈着が認められる。

b.流血中より抗表皮細胞膜(こうひょうひさいぼうまく)(間)抗体(天疱瘡抗体)(IgGクラス)を蛍光抗体法(けいこうこうたいほう)で同定する。

c.流血中に抗デスモグレイン1抗体や抗デスモグレイン3抗体があることをELISA法で証明する。

④判定および診断

a.①のうち少なくとも1項目と②を満たし、かつ、③のうち少なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡とする。

b.①のうち少なくとも2項目以上を満たし、③のa、b、cを満たす症例を天疱瘡とする。

治療の方法

 基本はステロイド薬による治療です。ステロイド薬は副作用もあり、マスコミの影響で怖い薬だから使いたくないと主張する患者さんが増えているようです。しかし、ステロイド薬が登場する前は、尋常性天疱瘡が死亡率90%以上の病気であったことを考えれば、ステロイド薬をのまなければ、10人のうち9人(以上)が、亡くなってしまうわけですから、ステロイド治療の大切さがわかると思います。

 ステロイド薬でも快方に向かわない時には、免疫抑制薬を使用します。血清浄化療法(けっせいじょうかりょうほう)や免疫グロブリン大量療法も有効です。落葉状天疱瘡ではDDS(レクチゾール)を使って治療することがあります。

病気に気づいたらどうする

 何も治療しなければ高率で亡くなる病気ですから、治りにくい水疱が体にできた時には、皮膚科専門医に診てもらうことが大切です。

田中 俊宏

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