天疱瘡は普通、前ぶれ(前駆症状)なく、健康な皮膚にいろいろな大きさの水ぶくれ(
尋常性では口のなかなどの粘膜も侵されることがほとんどですが、落葉状では粘膜は侵されないほうが多いとされています。
原因は、患者さんの血液のなかに含まれる免疫グロブリンという蛋白質の一部です。免疫グロブリンは、本来はウイルスやばい菌と闘うために私たちの体のなかにある蛋白質ですが、その一部が自分の皮膚と闘いだすために皮膚が傷んでしまいます。
具体的には、尋常性天疱瘡では皮膚のデスモグレイン(細胞と細胞をつなぐ蛋白質)3を、落葉状天疱瘡では皮膚のデスモグレイン1を攻撃します。
尋常性では、皮膚に突然水疱ができて、すぐに破れてびらん(ただれ)になります。びらんは治りにくく、触ると痛みがあります。おおよそ半分の患者さんでは、口のなかの治りにくいびらんで始まるとされます。
落葉状では、尋常性に比べて水疱が小さく乾きやすいので、皮膚に木の葉がついたように見えることがあります。普通は体中にできます。
診断では、厚生労働省が定めた診断基準が参考になります。以下に診断基準を抜粋しますが、わかりにくいのでカッコ内に解説を入れます。
①臨床的診断項目
a.皮膚に多発する破れやすい
b.水疱に続発する進行性、難治性のびらんないし
c.口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱、びらんないしアフタ性病変(口のなかに痛みがあるびらんができること)
d.ニコルスキー現象(強くこすると、そこに水疱ができること)
②病理組織学的診断項目(皮膚をとって検査する。皮膚生検という)
a.表皮間細胞間
③免疫組織学的診断項目(aは②とは別にもうひとつ皮膚をとる検査です。bは血液をとる検査)
a.病変部ないしは外見上正常な皮膚、粘膜部の細胞膜(間)部に免疫グロブリンG(IgG)(時に
b.流血中より
c.流血中に抗デスモグレイン1抗体や抗デスモグレイン3抗体があることをELISA法で証明する。
④判定および診断
a.①のうち少なくとも1項目と②を満たし、かつ、③のうち少なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡とする。
b.①のうち少なくとも2項目以上を満たし、③のa、b、cを満たす症例を天疱瘡とする。
基本はステロイド薬による治療です。ステロイド薬は副作用もあり、マスコミの影響で怖い薬だから使いたくないと主張する患者さんが増えているようです。しかし、ステロイド薬が登場する前は、尋常性天疱瘡が死亡率90%以上の病気であったことを考えれば、ステロイド薬をのまなければ、10人のうち9人(以上)が、亡くなってしまうわけですから、ステロイド治療の大切さがわかると思います。
ステロイド薬でも快方に向かわない時には、免疫抑制薬を使用します。
何も治療しなければ高率で亡くなる病気ですから、治りにくい水疱が体にできた時には、皮膚科専門医に診てもらうことが大切です。
田中 俊宏
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
全身に大小さまざまの水疱を生ずる疾患を,皮膚科では古くから天疱瘡と呼んでいた。しかし現在では,同様の症状を呈しても,原因の明らかなもの(たとえばブドウ球菌感染)は除いて,〈原因不明のもので慢性に経過し,全身に生ずる大小の水疱を主徴とする疾患で,皮膚に対する自己抗体を有する皮膚疾患〉を天疱瘡と定義している。なお,天疱瘡ときわめて類似する皮膚症状を示すが,その本態が異なる水疱性類天疱瘡,疱疹状皮膚炎,妊娠性疱疹,家族性慢性良性天疱瘡,良性粘膜類天疱瘡は,ここでいう天疱瘡とは別疾患である。
天疱瘡は中年以上の男女に好発し,通常,発疹の性状および病理組織学的所見から,尋常性天疱瘡,増殖性天疱瘡,落葉状天疱瘡,紅斑性天疱瘡の4型に分けられる。なかでも尋常性天疱瘡が最も重症である。いずれの型の天疱瘡でも,患者血清中に皮膚(正しくは表皮細胞間物質)に対する自己抗体が検出され,また病変皮膚には免疫グロブリンの沈着がみられる。これらの検査結果は,病因として自己免疫が関与していることを強く示唆している。水疱は,表皮細胞間の離開(棘(きよく)融解)により形成され,表皮上層(角層下)と表皮下層(基底細胞層直上)の2ヵ所に形成される。
尋常性天疱瘡は粘膜疹(とくに口腔)で初発し,一見健常な皮膚に水疱が多発する。自覚症状はほとんどない。水疱は弛緩性で疱膜はうすく破れやすく,容易に糜爛(びらん)し,融合して不規則な局面を形成し,糜爛面で疼痛が強い。いずれの型の天疱瘡でも,非水疱部の皮膚に物理的刺激を与えると水疱が新生したり,水疱を圧迫すると水平に拡大する現象が観察される(これをニコルスキー現象という)。
増殖性天疱瘡は尋常性天疱瘡の亜型で,間擦部(皮膚が互いにふれあう部位)の水疱に乳頭状増殖を伴う。落葉状天疱瘡は水疱の形成部が表在性(角層下)で,顔面,頸部,軀幹に落屑や痂皮を形成する。粘膜疹はみられない。紅斑性天疱瘡は落葉状天疱瘡の亜型で,顔面に蝶形紅斑を伴う。別の自己免疫性疾患である紅斑性狼瘡(エリテマトーデスとも呼ばれる)を合併するものとしないものがあり,また,重症筋無力症や胸腺腫の合併も知られている。いずれの型の天疱瘡でも全身症状を伴うことは少ない。
診断は,難治性の水疱糜爛,痂皮,ニコルスキー現象陽性,水疱部の病理組織像で棘融解による表皮内水疱,また表皮内への好酸球浸潤による海綿状態,水疱底部からの塗抹標本で棘融解性細胞の検出,および血中自己抗体の証明,病変部の表皮細胞内への免疫グロブリン,補体成分の証明などによって行われる。鑑別を要する似た疾患には,冒頭に述べた類似疾患に加え,重症薬疹,伝染性膿痂疹,角層下膿疱症などが挙げられる。
治療は,原則として入院のうえ,内臓悪性腫疹の有無について検査すると同時に,全身的に副腎皮質ホルモンの経口投与を行う。発疹の状態によっては輸液も必要である。各種の免疫抑制剤(アザチオブリン,サイクロホスファマイドなど)やジアミノジフェニルスルホンの内服,あるいは金療法なども併用あるいは単独に行われる。局所的には,二次感染に留意し,糜爛面にはサルファ剤,抗生物質含有軟膏,副腎皮質ホルモン含有軟膏などを塗布する。
尋常性天疱瘡は以前はきわめて予後不良とされていたが,副腎皮質ホルモン剤の導入により,かなりの生命延長と症状の改善が得られるようになった。しかし治療開始時にプレドニソロン(副腎皮質ホルモン剤)100mg/日以上の投与を必要とする場合の予後は不良と考えられている。落葉状天疱瘡,紅斑性天疱瘡は慢性に経過し,予後は良好で自然治癒も観察される。
執筆者:西川 武二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
全身に広く水疱を生ずることを特徴とする疾患で、自己免疫疾患と考えられており、特定疾患(難病)に指定されている。指頭で摩擦するような機械的刺激によって、一見健康そうな皮膚の表層がはがれ、表皮組織が裂けたところが水疱となる。その表皮の裂け方や臨床症状などから、尋常性天疱瘡、増殖性天疱瘡、紅斑(こうはん)性天疱瘡、落葉状天疱瘡などと分類されている。いずれも病期には血中に天疱瘡抗体が証明されるが、副腎(ふくじん)皮質ホルモンによる治療で寛解が期待される。
[上田由紀子]
なお、天疱瘡という疾患名には「疱瘡(ほうそう)」という漢字表記が含まれるが、天然痘(てんねんとう)の俗称である「疱瘡」とは、まったく異なるものである。天疱瘡は、前述のとおり、自己免疫性の皮膚疾患と考えられ、遺伝、またウイルスによる感染性はない。2008年(平成20)現在日本全国の患者数は、厚生労働省研究班の調査によれば、3000~4000人程と推定される(難病情報センター資料による)。一方、「疱瘡」または「痘瘡(とうそう)」とも称される天然痘は、天然痘ウイルスを病原ウイルスとする強力な感染症であり、種痘(しゅとう)の普及以前は、非常に恐れられた。日本では、天然痘が根絶されて久しく、患者はいない。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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