好酸球性多発血管炎性肉芽腫症

内科学 第10版 の解説

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(血管炎症候群)

(7)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)
(旧名Churg-Strauss症候群/アレルギー性肉芽腫性血管炎Churg-Strauss syndrome/allergic granulomatous angiitis)
概念
 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は気管支喘息,好酸球増加,小血管の壊死性血管炎による症状を呈する.わが国の患者数は約1800人と推定されている.男女差なく,20〜40歳に好発する.多くの症例ではアレルギー性鼻炎や気管支喘息と末梢血好酸球増加が先行し,その後に血管炎症候群を発症する.
病理
 好酸球浸潤を伴う細動静脈・毛細血管の壊死性血管炎または肉芽腫性血管炎を認める.血管外肉芽腫を認めることもある(図10-8-11).
臨床症状
 発熱,体重減少,筋痛,関節炎に加え,紫斑や多発単神経炎がみられる.多くの症例で,気管支喘息やアレルギー性鼻炎などが先行する.進行すると心外膜炎や心タンポナーデ,脳出血・脳梗塞,消化管出血などを呈して死因となる.
検査成績
 血液検査では,赤沈・CRPなどの炎症反応の亢進を認め,末梢血好酸球数>2000/μL,血清IgE>600 U/mLを呈する.P-ANCA,特にMPO-ANCAが50%で陽性となり,その抗体価は病気の活動性と並行する.
診断・鑑別診断
 気管支喘息,好酸球増加が先行する小型血管炎という点で診断される.確定診断は生検組織の特徴的な病理所見よりなされる.
経過・予後
 わが国での10年生存率は90%である.死因は消化管出血,脳出血,心筋梗塞などであり,多発性単神経炎による運動麻痺は長期間にわたり持続する.
治療
 EGPAの血管炎症状は副腎皮質ステロイドによく反応することが多く,プレドニゾロン30〜40 mg/日が有効である.多発性単神経炎(特に運動神経障害)や臓器障害(肺・心・消化管・腎・中枢神経)のある重症例にはプレドニゾロン40~60 mg/日を4~8週間投与し,症状・検査所見の改善をみたのち漸減する.ステロイド内服無効例や内臓病変の急速進行例ではステロイドパルス療法に加え,MPAに準じた免疫抑制療法や血漿交換療法も併用される.難治性の多発性単神経炎に対して免疫グロブリン大量静注療法が行われる.気管支喘息に対しては,一般の気管支喘息治療に用いられる薬剤を適宜使用する.[尾崎承一]
■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう
eosinophilic granulomatosis with polyangiitis

全身の小・中型の血管に炎症がおこり、正常な血流を妨げることにより、さまざまな臓器に障害が生じる疾患。略称EGPA。原因不明の難病である。1951年に二人の病理学者チャーグJacob Churg(1910―2005)とストラウスLotte Strauss(1913―1985)により報告され、チャーグ‐ストラウス症候群(CSS:Churg-Strauss syndrome)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA:allergic granulomatosis angiitis)などとよばれていたが、2012年に現名称に改められた。中年以降の発症が多く、女性にやや多い傾向がある。多くは気管支喘息(ぜんそく)もしくはアレルギー性鼻炎の症状が先にみられ、白血球の一種である好酸球に著明な増加がみられることからアレルギー性の原因が考えられている。発熱、体重減少などの全身症状のほか、末梢(まっしょう)神経障害による四肢のしびれや麻痺(まひ)、紫斑(しはん)などの皮疹(ひしん)、虚血性腸炎による腸痛や下血などがみられる。ごくまれに、脳および心臓や消化管などに重篤な病変を生じることもある。治療は副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド薬)の投与が有効なことも多いが、免疫抑制薬や高用量γ(ガンマ)‐グロブリン療法なども併用する。

[編集部 2017年4月18日]

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