食の医学館 「妊娠中の諸注意」の解説
にんしんちゅうのしょちゅうい【妊娠中の諸注意】
つわりは全妊婦の80%にみられる、生理的な症状です。つわりのひどさは人それぞれですが、初産婦や多胎(たたい)(双子(ふたご)など)の場合、胞状奇胎(ほうじょうきたい)の場合にとくに強く現れる傾向があります。
嘔吐(おうと)をくり返して脱水症状を起こし、皮膚が乾燥したり、肝臓や腎臓(じんぞう)の障害、頭痛やめまい、意識障害などをともなうほどひどい状態を、妊娠悪阻といいます。
とくに頭痛やめまい、意識障害などが現れた場合には、母子ともに危険な状態におちいることもあるので、あまりにもつわりの症状がひどい場合には、産婦人科を受診する必要があります。産婦人科での処置としては、点滴によって水分や栄養分を補給するほか、ビタミン剤の投与などがあります。
《つわり・妊娠悪阻を緩和する食事》
つわり、または妊娠悪阻では、「食べたいものを食べられるときに食べる」ということが基本です。一般には、冷たい食品・料理、水分の多い食品・料理、酸味が強くてさっぱりしている食品・料理がこの時期に好まれるようです。
たとえば、冷やしそうめんや冷や奴、アイスクリーム、野菜ジュースやフルーツサラダなどのほか、酢やレモン、ユズやカボスなどをじょうずに利用してさっぱり味の調理を心がけると、食欲が増進します。
また、つわりの症状は空腹時に強く現れます。なるべく空腹を避けるために、食事の時間帯にこだわらず、少しおなかが空いたと感じたら、なにか口にすると症状は軽減されます。
つわりはいずれ症状がなくなりますが、それまでのあいだもできるだけ健康な母体と胎児の発育を考えて、妊娠中に必要な栄養素(「妊娠中に必要な栄養素を多く含む食品」参照)を摂取するように心がけることも非常にたいせつです。
《切迫流産》
流産が迫っている状態で、流産のはじまりの症状といえます。出血や下腹部痛がおもな症状で、妊娠の15%にみられます。受診のうえ、安静にしていることがたいせつ。かならずしも流産につながるというわけではなく、症状がおさまり胎児の生存を確認できれば、正常に出産を迎えることができます。切迫流産は妊娠中期の22週くらいまでは起こる可能性があるので、妊娠中期までは、引き続き日常生活での注意が必要です。
《流産》
流産は12週までに起こりやすく、全体のおよそ90%を占めます。その原因のほとんどが胎児の染色体異常によって受精卵が育たないこと。母体の過労やショック、精神的なストレスなどが原因で起こることもあります。こちらは母体に原因があることがほとんど。性感染症や子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)などの病気や器質的障害、腹部を圧迫するなどの外からの影響が原因となります。
一方、残りの10%は、21週くらいまでに(後期流産)起こりますが、
《流産を防ぐ食事》
妊娠初期の流産は、胎児の異常などにより発育不能におちいり、自然淘汰されていくものですし、中期以降の流産は母体の器質的な障害によるものが多く、いずれも防ぐことがむずかしいものですし、また食生活で予防・改善できるものでもありません。
しかし、中国の漢方的な考え方のなかには、昔から安胎作用(あんたいさよう)があると考えられている食品があります。
その1つは黒豆。栄養効果も高く、良質のたんぱく質、ビタミンB群を摂取できると同時に、利尿作用もあり、むくみの防止にも効果があります。出世魚(しゅっせうお)のスズキも胎児の発育を助ける食品であるといわれています。
また、良質のたんぱく質やカルシウムを豊富に含み、婦人科系疾患に効果があるとされるキクラゲも妊娠中には積極的に食べたい食品です。とくに、キクラゲを煎って焦がして粉末にしたものを熱い酒に入れて飲むと、流産予防になるといわれています。
《出産までに8~10kg増加が目安》
出産時、胎児の体重はおよそ3kgまで成長しています。ところが、妊婦の体重はそれ以上増加してしまいます。これは妊娠にともなうホルモンの働きにより、出産に備えてエネルギーを蓄えようとするからです。つわりがおさまり、食欲がわいてくると同時に、赤ちゃんのためにもたくさん食べようという気持ちにもなるでしょう。しかし、食欲のまま食べ続け、体重が増加しふとりすぎると、さまざまな弊害が生じます。
たとえば妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や糖尿病は、妊娠と同時にふとりはじめた人のほうが、標準的に体重が増加している人にくらべて数倍も多く発生しています。
また産道のまわりに脂肪がつき、胎児が通りにくくなったり、子宮の収縮力が弱くなるため、スムーズな出産が困難になることがあります。母乳の出も悪くなるともいわれています。
それどころか、出産を終え、いざ体重をもとにもどそうとしても、必要以上にふえてしまった体重はなかなかもどりにくく、腹部などについた脂肪を落とすのもひと苦労です。
一般的には出産までに8kgの増加、妊娠中期からは1か月に1kgの増加を目安にしましょう。しかし、もともとやせている人、ふとっている人では異なり、やせている人なら8~10kg、ふとっている人なら3~5kgを目安にしましょう。また、BMI〔肥満度の判定法で、体重(kg)÷{身長(m)}2で算定〕では、20~25未満なら正常、25以上なら肥満とされます。BMIが正常値の場合、妊娠時にふえる体重は8kgが理想、やせすぎの人は10kg増。BMIが肥満の場合、4~5kg増が目安とされます。自分の標準体重〔標準体重(kg)={身長(m)}2×22〕を計算のうえ、コントロールしていくことがたいせつです。
最近は妊婦の体重管理をきびしく行うようになり、逆に低体重児の増加問題が起きています。必要な栄養素をきちんととりながら、体重管理をしましょう。
妊娠中に物を持ち上げるときは、腹部を圧迫しない、膝をついて上に物をのせることなどを心がけましょう。
《体格によって摂取カロリーを計算》
体重をコントロールするには、どの程度の栄養量(カロリー)を摂取したらいいのか、きちんと理解しておくことがたいせつです。
一般的に、女性に必要な1日の摂取カロリーは1,750~2,300kcalですが、年齢、身長、日ごろの生活活動の強度によって摂取カロリーは異なりますので、後述の女性の年齢別推定エネルギー必要量を参考に、まずは自分の摂取カロリーの目安量を把握してください。それから妊娠前半では約50kcalを、中期に250kcal、後半では450kcalを付加した数字が、妊娠中に必要な摂取カロリーになります。
同時に、無理をしない程度の運動によって、摂取したカロリーを消費することも心がけましょう。
以下に、女性が1日に必要とする推定エネルギー必要量の目安を、[年齢/身長/体重/エネルギー]の形で示します。
・15~17歳/157.7cm/51.9kg/2,300kcal
・18~29歳/158.0cm/50.0kg/1,950kcal
・30~49歳/158.0cm/53.1kg/2,000kcal
・妊婦(妊娠37~42週未満)は+450kcal、授乳期は+350kcalとなります。
上に記したのは、通勤、買い物など1時間程度の歩行と軽い手作業や家事などによる立位のほかは、大部分座位で事務、勉強、談話などをしている人の場合の推定エネルギー必要量(エネルギー=kcal)の目安です。
このような日常生活活動の程度を「身体活動レベル」といいますが、身体活動レベルの低い人は、活動の内容をかえるか、運動を付加することによって、身体活動レベルを上げ、それにしたがってエネルギー必要量をふやしていくのが望ましいとされています。
《低カロリーに抑える調理法》
〈肉類の脂身カット〉
鶏肉、豚肉、牛肉と、カロリーの低いものから選びましょう。また、鶏肉ならささみ、豚・牛肉ならひれやもも肉にし、皮がついていたらそぎ落とす、脂身(あぶらみ)が多いならゆでて余分な脂を取り除くなどくふうしましょう。
〈メインディッシュは魚介類で〉
一般的に魚介類は肉類よりもカロリーが少ないものが多いのですが、必要なたんぱく質は十分に摂取することができます。とくに貝類などにはミネラルもたっぷり含まれていますので、ふだんは具に肉類を使う料理でも、魚介類でアレンジしてみるなどくふうしてみましょう。
〈具だくさんの料理を〉
野菜類、キノコ類をたくさん使って、料理のボリュームを補充しましょう。また、たまごは1日1個を目安にし、野菜を中心にした具を使ってアレンジすれば、料理のバリエーションも広がります。低カロリーで栄養価の高いとうふを、サラダや炒(いた)めものに加えるなどして栄養価のバランスをはかりましょう。
ただし、サンマなど青背の魚は油が多く、高カロリーなので、体重制限が必要な妊婦の場合は、白身魚などからたんぱく質をとるようにしましょう。