家庭医学館 「子どもの言語障害」の解説
こどものげんごしょうがい【子どもの言語障害 Language and Speech Disorders】
[どんな病気か]
ことばの発達の遅れや発音に異常がある場合を、一般に言語障害と称していますが、これには、ことばの理解が悪くて話せない場合と、ことばの理解はできるが話せない場合とがあります。
一方、言語障害が生じる時期でみると、はじめからことばが発達してこない場合と、ことばはいったん発達したものの、脳の病気や損傷によって話せなくなる場合があります。
[原因]
ことばの発達が遅れる原因は、つぎのようなものがあります。
■難聴(なんちょう)
非常にわかりにくい障害ですが、言語発達に与える影響は決定的です。問題は難聴の程度が比較的軽い場合で、近くで声をかければ振り向くため、難聴に気づきにくいのですが、ことばを100%聞き取れるわけではないので、言語発達が遅れます。
難聴児の言語発達の遅れは、能力の欠陥によるものではないので(図「言語習得能力を器の容積で表わすと……」)、早く発見して適切な対策を講じれば言語発達を促すことができます。
■精神遅滞(せいしんちたい)
精神遅滞児の言語発達の遅れは、基本的には言語習得能力の低さが原因です(図「言語習得能力を器の容積で表わすと……」)。
精神遅滞の子どものことばの発達には個人差がありますが、人間の脳は、少なくとも思春期ごろまでは成熟が続き、言語習得能力もその子なりのペースで発達するので、長い経過でことばが発達してくる可能性があります。
■情緒発達の遅れと情緒障害
親が育児に不熱心だったり、子どもが嫌いで、虐待(ぎゃくたい)に走るなどによって、子どもに情緒障害が生じます。
これとは別に、情緒発達の遅れとして、行動がマイペースで、親子のコミュニケーションができにくい子どもがいます。いわゆる自閉的な子で、ここでは小児自閉症も含めますが、いずれにしても、情緒的にコミュニケーションができにくい行動特徴が、言語発達の大きな妨げになります。
情緒の発達は、一般に子どもどうしのふれあいのなかで、脳の成熟にともなって改善してきます。
■体験不足
両親が聴覚障害で、家族内のコミュニケーションが手話に限られるとか、ひとりっ子で家庭に閉じこもる、近所に遊び相手がいないといった環境にある子どもは、ことばによるコミュニケーションや、精神発達や言語発達に不可欠な原体験・実体験が不足し、これが言語発達の遅れを招きます(図「言語習得能力を器の容積で表わすと……」)。このような言語発達の遅れた子どもが増加してきています。
近年の少子化傾向、生活の便利化、社会の電脳化といった環境の変化は、言語発達だけでなく、人間形成のうえでも大きな問題を生じつつあります。
■運動性発語発達遅滞(うんどうせいはつごはったつちたい)
知能の遅れがなく、他人の話は年齢相応に理解できるのに、ことばを話す面だけが特異的に遅れたタイプです。
この種のことばの遅れを有する子どもは、箸(はし)や鉛筆が上手に持てない、食物をあまりかまない、かんで食べる食物を嫌う、よだれが出やすいなどといった、舌や指の精細運動の発達の遅れや、不器用など運動機能に関する問題を有することが少なくありません。
簡単にいえば、ろれつが回らないのがこの種の子どもの特徴です。
この運動上の問題は、まひが原因ではないので、脳の成熟にともなって改善してきます。
■小児失語症(しょうにしつごしょう)
言語獲得後(2歳以上)になって、大脳の言語中枢(げんごちゅうすう)が損傷されるか、てんかんにともなって生じる言語障害です。幼児の脳は成熟の途上にあるため、ことばの回復する能力はおとなに比べると高いのですが、学校で学業についていくのは一般にむずかしく、個人的配慮が必要になります。
[検査と診断]
言語あるいはことばの発達の遅れの原因を明らかにし、子どもがどんな援助を求めているかを把握します。
まず、耳が正常に聞こえているかどうかを調べるために、聴力検査を行ないます。総合病院であれば、乳児でも耳鼻科(じびか)で聴力を調べてもらえます。
ついで精神発達検査を行ない、精神発達に遅れがないかを調べます。
その後、耳鼻科的局所検査、随意運動の発達検査などを行ないますが、これら一連の検査の過程で、子どもの行動も注意深く観察します。
◎子どもどうしの遊びがたいせつ
[治療]
原因が判明すれば、それに応じた治療・対策をたてます。
すべての子どもに共通していえることですが、言語指導にあたっては、自然環境や子どもどうしの遊びをたいせつにし、原体験・実体験を乳幼児期のうちにたっぷりと積ませておくことがたいせつです。ことばの意味や概念の習得に不可欠だからです。
一方、学習は能動的でなくてはなりません。このためには親子の情緒の安定も重要です。
子どもが喜んでやることは身につきますが、嫌がるのをむりに教え込む言語訓練は、百害あって一利なしです。避けなければなりません。
●難聴の治療と対策
難聴があって、それが治療で治せない場合(たとえば感音難聴)は、ただちに補聴器を装用させて言語指導を始めます。
補聴器がまったく役立たないほど難聴が重い場合は、人工内耳(じんこうないじ)という方法もありますが、これは最後の選択で、まずは補聴器の活用を試みるべきです。
このための指導は、小児難聴の専門外来のある耳鼻咽喉科(じびいんこうか)か聾学校幼稚部(ろうがっこうようちぶ)で受けられます。
●精神遅滞児の治療と対策
精神遅滞児については、専門の指導機関か福祉センターなどで、言語聴覚士の指導を受けるのがよいでしょう。
情緒発達に遅れのある子どもは、一般的にいって保育園のような子どもどうしの集団へ入れるのが効果的です。
このような環境で社会性が発達してくると、ことばによるコミュニケーションも発達してきます。
●運動性発語発達遅滞の治療と対策
精細運動の不器用な子どもには、全身運動に加えて指を使う遊びがよく、とくに食生活において、子どもが好み、しかもかまざるをえないような食物を与えると、間接的ながらも発語の発達をうながす訓練になります。