日本大百科全書(ニッポニカ) 「季節学」の意味・わかりやすい解説
季節学
きせつがく
phenology
生物の季節現象を調べる学問。中国では「物候学」という。影響を与える季節の側に研究の主体のある場合は気候学の一部、影響を受ける側に研究の主体のある場合は生態学の一分野に属するが、一般にはこの両面について研究されているので境界領域にある科学といえる。季節学は自然誌的な季節現象の記載から始まり、実用的には農事暦の形に要約され、生物のさまざまな季節現象を農作業の目安にするようなことが、たとえば「コブシの花が咲いたら豆を播(ま)け」というようなことが行われてきた。
測器を用いた科学的気象観測が始められてから以後も、開花期日、渡り鳥の渡来期日などが記録されてきたが、長年にわたるこれらの記録は平均され、「生物暦」のようなものもつくられた。 には一例として山陰における野鳥暦を示したが、記録の対象としては、植物の開花、落葉、動物としては昆虫、哺乳(ほにゅう)類の行動、魚の旬(しゅん)など、また人間の生活に関係していえば更衣(こうい)のシーズンなど、さまざまな季節現象が考えられるのであり、これらがどんな仕組みで季節変化をおこしているかが調べられているのである。近ごろ、都市生活や野菜のハウス栽培などにおいては季節に従わない人為的影響(たとえば1週間のリズム)が著しいため、季節の影響だけを独立に取り出すことがたいへんむずかしくなっている。
[根本順吉]