改訂新版 世界大百科事典 「季節的集落」の意味・わかりやすい解説
季節的集落 (きせつてきしゅうらく)
特定の季節によって,居住地を変える集落であり,季節村,あるいは回帰的集落ともいわれる。これは移動集落の一種である。この集落は垂直的移動と水平的移動に二大別される。前者の事例としては,スイスのアルプス山岳地帯において夏季に高地へ移動する移牧集落があり,日本では第2次大戦前まで白山山麓の白峰村(現,白山市)や乗鞍岳東斜面でみられた夏季出作(でづくり)集落などがある。出作り源地ともいうべき居住地(居村または親村。白峰村ではこれを地下(じげ)といった)は,農耕地が狭少で零細的農業経営であり,それに加えて豪雪地帯のため,生活の糧を得る手段として夏季に家族で山地に入り出作小屋を建て,焼畑により開墾し,若干なりとも耕地を拡張した。すなわち出作先は夏村であって,冬季になると親村に帰村するという組織をもつ季節的集落である。しかし,ときには出作先に定住する場合もあった。第2次大戦後は林業の発達により出作農業は衰退した。最近では別の形態の季節的集落が出現している。長野県や南西諸島の一部に,夏季の観光シーズンにのみ観光的経営の集落がある。一方,水平的移動の事例としては,中部アフリカの森林地帯の諸民族,極北のエスキモー,シベリアのツングース族などの狩猟民族の集落,および北大西洋のロフォーテン諸島の漁民集落などがある。この漁民集落は毎年1月中旬から4月中旬にかけて,ニシンやタラ漁にノルウェー海岸から出漁に来ている集落である。日本では石川県輪島市海士町(あままち)から舳倉(へくら)島へ移動する海女集落が知られている。6月に舳倉島に渡り,9月末までアワビ,サザエ,テングサ,ワカメなどをとる磯浜漁業に励み,10月には本村に帰村する。11月まで冬の薪作りや漁獲物の販売や日用品の購入のために能登半島巡り(灘回りという)をすることになっていたが,最近では交通路が整備されたり交通機関が発達したのでその必要はない。1~3月はノリ操業,4~5月はノリとイワシ漁を行っている。舳倉島は地下水が豊富であり,最近では定住者が増加している。
執筆者:山田 安彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報