大学事典 「学校教育法と設置基準」の解説
学校教育法と設置基準
がっこうきょういくほうとせっちきじゅん
School Law and Standards for School Establishment
[学校教育法の規定と設置基準の種類]
学校教育法(日本)3条には「学校を設置しようとする者は,学校の種類に応じ,文部科学大臣の定める設備,編制その他に関する設置基準に従い,これを設置しなければならない」と定められている。設置基準は,学校教育が一定の水準を保ち教育の機会等を図るために定められた最低基準をいう。この学校教育法の規定に基づいて制定されている設置基準には,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,高等専門学校,短期大学,大学,大学院,専門職大学院,専修学校および短期大学通信教育,大学通信教育がある。このほか,高等学校通信教育規程や各種学校規程も設置基準の範疇に入る。いずれも文部科学大臣が定める省令である。このうち大学設置基準は大学設置の認可のための最低要件を規定したものであるが,同時に基準内における実際の具体的な運用は各大学に任せられる。
[大学基準と大学設置基準]
現行の大学設置基準(日本)は,1956年(昭和31)10月22日に文部省令として制定されたが,内容自体はそれまでの大学基準協会(日本)による大学基準(日本)およびその解説の大部分を引き継ぐものであった。大学基準協会(日本)(現在の公益財団法人大学基準協会)は,アメリカのアクレディテーション団体をモデルに1947年(昭和22)7月に設立された自立的な団体である。同年8月に,新制大学制度の基本構造ともなった「大学基準及びその解説」を発表した。この大学基準は基本的には協会への入会の資格判定基準であったが,その後文部省に設置された大学設置委員会(日本)(のち大学設置審議会(日本)と改称)の大学設置の基準としても継承・採用されることになった。
省令基準である大学設置基準の制定の要因としては,①新制大学の教育研究体制の整備が急務になったこと,②とくに旧制の専門学校から移行した国立大学および学部の整備充実の必要性,③一般教育(日本)の科目枠を専門科目との関係で弾力化を図る必要があったこと,が挙げられる。一般教育の科目例示などはそれまでの大学基準とほぼ同じであったが,大きく変更された事項として,まず1単位の履修時間を明確にし,「教室内及び教室外合せて45時間」という原則規定がはじめて明示された。次に,単位の計算方法に関しては,従来のような科目例示による方法をやめ,単に講義と演習および実験・実技等の授業形態に基づく計算方法にとどめた。また,卒業要件124単位のうち一般教育科目は36単位としながらも,専門技能の教育を主とする学部では8単位を「基礎教育科目」の単位に振替ができると規定した。同様に外国語科目についても,一つの外国語科目8単位を最低として,二つ以上の場合は他の一つは4単位以上でしかも専門科目に含まれるとした。このほか授業科目の編成に関して,各授業科目を必修,選択および自由科目に分け,これを各年次に配当して編成するという原則も明確にされた。評価については,「1授業科目を履修した者に対して,試験の上単位を与える」ことが基準上明確にされることになった。
1973年(昭和48)11月28日には,同年のいわゆる「筑波大学法」と呼ばれる法律改正を受けて答申された,大学設置審議会の「大学設置基準の改善について」の内容をほとんどすべて盛り込んだ基準の改正が行われることになった。この改正は改革のための大胆な試みをも可能にするものであり,とくに単位制度に関わる弾力化のうち授業期間の弾力的措置は注目された。つまり,学習の連続性や国際化を考慮した3学期制の導入で,授業科目の授業期間は15週のほか10週でもよいことになった。また教育上必要な場合は,外国語の演習や体育実技などでは短期間に集中的授業を行うなど,従来の期間にとらわれないで授業が行えるようになり,単位計算方法に関する規定から週数に関する事項が整理されることになった。
[大学設置基準の大綱化(日本)]
1991年(平成3)の大学設置基準の改正は,個々の大学がその教育理念・目的に基づき,学術の進展や社会の要請に適切に対応しつつ,特色ある教育研究を展開し得るために,「大綱化」を最大のキーワードとしてそれまでの規定内容をほぼ全面的に改めるものとなった。基準改正の大きな柱は次の三つに置かれた。一つは基準の大綱化であり,二つは生涯学習の振興の観点からの学習機会の多様化であり,三つは基準史上初めての自己点検・評価の導入である。
基準の大綱化のうち最も画期的でかつ各大学に大きな影響を与えたのが,一般教育科目や専門教育科目等の授業科目区分の廃止と単位制度の大幅な弾力化である。単位制度の弾力化措置は,それまでの授業科目区分への単位数配分規定の全廃という思い切った形でみられたが,それとともに1単位の計算方法の弾力化も図られることになった。
単位計算方法に関しては,講義や演習の場合には15~30時間,実験・実習等の場合には30~45時間までの範囲内で,各大学が定める時間の授業をもって1単位と規定された。これにより演習等による授業の開設を促進させるとともに,それぞれの枠の中で各大学の自主性が期待されることになった。授業時間設定の自由度は増したが従来の1単位の大原則は順守され,「標準45時間の学修」という基本的枠組みは残された。したがって,45時間から授業時間を差し引いた残りの時間は学生の予習や復習の準備学習の時間となり,その意味では制度発足の自学自習の尊重(日本)は維持されたといえる。大学審議会の議論の過程でも,当初は教室外の学習成果を単位計算の中に組み入れることが現実には空洞化しており,単位計算方法を「技術的な観点から」見直すことに始まったといわれる。しかし,その後に「標準45時間の学修」という大枠は最終の段階で残すことになり,それは「単位の実質化という観点から」この問題を考え直した結果でもあった。教室外の準備学習およびその成果をどのように考え具体的に対処していくかという,古くて新しい問題がここでも論議の中心となっていたのである。
大学設置基準は,その前史としての大学基準を含めると70年近くを経過したが,その変遷の歴史は大学の現場や運用の問題を改善する形で展開してきたといえる。基準の大綱化によって授業科目区分の撤廃や1単位の計算方法の弾力化など,各大学の自由裁量が大幅に増加したが,教育の実質化あるいは学位の質保証(日本)といった点においていまだに残された課題は大きい。なお2013年(平成25)4月からは,これまでの授業期間10週・15週の基準規定も原則規定に緩和され,学期制の柔軟な運用などを促すことになった。
著者: 清水一彦
参考文献: 戦後大学史研究会(代表大﨑仁)編著『戦後大学史』第一法規出版,1988.
参考文献: 清水一彦『日米の大学単位制度の比較史的研究』風間書房,1998.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報