華厳経(読み)ケゴンキョウ

デジタル大辞泉 「華厳経」の意味・読み・例文・類語

けごん‐きょう〔‐キヤウ〕【華厳経】

大乗経典華厳宗の根本聖典。漢訳には東晋仏駄跋陀羅ぶっだばっだら訳の60巻本、唐の実叉難陀じっしゃなんだ訳の80巻本、唐の般若はんにゃ訳の40巻本の3種がある。釈迦成道じょうどうした悟りの内容を表明した経典とされ、全世界を毘盧遮那仏びるしゃなぶつ顕現とし、法界縁起・無尽縁起を説く。大方広仏華厳経。

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精選版 日本国語大辞典 「華厳経」の意味・読み・例文・類語

けごん‐きょう‥キャウ【華厳経・花厳経】

  1. 仏典の一つ。大方広仏華厳経のこと。東晉の仏駄跋陀羅訳の六十巻本(六十華厳経、旧訳華厳経とも)、唐の実叉難陀訳の八十巻本(八十華厳経、新訳華厳経とも)、唐の般若訳の四十巻本(四十華厳経、貞元経とも)の三つがある。大乗経典中、最も重要なものの一つで、華厳宗が所依(しょえ)とする経であるとともに、天台宗をはじめ諸宗に多大の影響を与えたもの。釈迦が悟りを開いて後二七日目に、海印三昧に入って毘盧遮那法界身(びるしゃなほっかいしん)を現じ、蓮華蔵世界に住して、文殊(もんじゅ)などすぐれた菩薩に対して仏の悟りの内容を示したもので、一切の世界を毘盧遮那仏の顕現とし、どんな小さな微塵も全世界を映し、一瞬の中に永遠を含むと説き、一即一切、一切即一の世界観を展開している。けごん。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「華厳経」の意味・わかりやすい解説

華厳経
けごんきょう

仏教経典。詳しくは『大方広仏(だいほうこうぶつ)華厳経』。漢訳には完本として東晋(とうしん)の仏駄跋陀羅(ぶっだばっだら)訳(晋訳、旧訳(くやく))の六十巻本(いわゆる『六十華厳』)と、唐の実叉難陀(じっしゃなんだ)訳(唐訳、新訳)の八十巻本(『八十華厳』)とがある。初期大乗仏教の代表的経典であるが、初め各章が独立に成立し、それがのちに現行の完本の形に集成されたものである。サンスクリット原典が残っている「十地品(じゅうじぼん)」と「入法界品(にゅうほっかいぼん)」は、ともにこの経の古い部分に属し、その成立は紀元1世紀にさかのぼる。本経は、大乗仏教の空(くう)の世界観をその完成された形で詳説するものであるが、その根本は、自己および人類の現状を包含する世界を、それが慈悲に基づく他者に対する利他の働きかけ(行(ぎょう))である限りにおいての、限りなく広大で美しい種々の荘厳(しょうごん)(飾り)の総体、すなわち華厳の仏毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)(「輝きわたるもの」の意)の法身(ほっしん)とみなす点にある。そして、世界の空とは、この広大で美しい仏の世界が、実はそれを自らの理想として信解する一人一人の人間の、その理想へ自己を実践的に投入しようという決意(願(がん))と、その実行(行(ぎょう))によって幻のごとくに顕現し、かつ、その実践の永遠の持続によって維持される、といういわゆる法界縁起の思想にほかならない。「入法界品」は、善財童子(ぜんざいどうじ)の求法(ぐほう)の遍歴の経過をたどる戯曲的構成をとりつつ、普賢菩薩(ふげんぼさつ)の行(ぎょう)の曼荼羅(まんだら)と表現されるこの世界の構造と内実、そしてそれが個々の菩薩の願と行とによって実現され、存続せしめられるというその空なる本性とを明らかにする。

[津田眞一]

『玉城康四郎訳『仏典2 現代語訳・華厳経』(『世界古典文学全集7』所収・1965・筑摩書房)』『荒牧典俊校注『十地経』(『大乗仏典8』所収・1974・中央公論社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「華厳経」の意味・わかりやすい解説

華厳経 (けごんきょう)

大乗仏教経典の一つ。詳しくは《大方広仏華厳経Buddhāvataṃsaka-nāma-mahāvai-pulya-sūtra》。漢訳3種およびチベット訳が現存し,サンスクリット本は〈十地品〉と〈入法界品〉の章のみがそれぞれ独立の経典として現存する。漢訳は仏駄跋陀羅(ぶつだばだら)Buddhabhadra訳60巻(418-420),実叉難陀(じつしやなんだ)Śikṣānanda訳80巻(695-699),般若(はんにや)Prājñā訳40巻(795-798)で,同名のため,巻数によって《六十華厳》《八十華厳》《四十華厳》と呼んで区別する。ただし,《四十華厳》は〈入法界品〉のみに相当する部分訳である。元来独立して成立した各章が,後におそらく中央アジアにおいて集大成されたものと考えられている。内容は,悟りを開いたばかりの仏の境地をそのままに表現したものとされ,ここでの仏は歴史上の仏を超えた絶対的な毘盧遮那仏(びるしやなぶつ)(バイローチャナ)と一体になっている。菩薩の修行の階梯を説いた〈十地品〉,善財童子の遍歴を描いた〈入法界品〉などが有名。本経にもとづいて,中国で〈華厳宗〉が成立し,日本でも南都六宗の一つとされる。東大寺の大仏も本経の経主毘盧舎那仏である。
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百科事典マイペディア 「華厳経」の意味・わかりやすい解説

華厳経【けごんきょう】

大乗仏教経典の一つで,正しくは,大方広仏華厳経。広大な真実の世界を包含する仏が,一切の衆生(しゅじょう)・万物とともにあり,さらに一切の衆生・万物も仏を共有し得る(一切即一,一即一切)ことを,華(はな)の美しさにたとえて説いた経典。日本でも東大寺の大仏(毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ))はこの経の本尊により造立された。漢訳に3種あり,〈六十華厳〉〈八十華厳〉〈四十華厳〉と巻数を冠して呼ばれる。中でも〈入法界品〉と〈十地品〉は有名で,サンスクリット語本,ネパール発見本では,それぞれ独立の経典とされている。
→関連項目華厳宗善財童子毘盧遮那仏普賢仏教蓮華蔵世界

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「華厳経」の意味・わかりやすい解説

華厳経
けごんきょう
Buddhāvataṃsaka-nāma-mahāvaipulya-sūtra

仏教経典。詳しくは『大方広仏華厳経』。サンスクリット語で書かれた完全な形の原典は未発見。おそらく4世紀頃中央アジアで成立したものであろうといわれる。いわば,小経典を集成して『華厳経』といったもので,最初からまとまって成立したものではなく,各章がおのおの独立した経典であったと考えられる。このうち最古のものと考えられる章は,菩薩の修行の段階を説いた「十地品」で,1~2世紀頃の成立。このほか『華厳経』のなかには,善財童子が法を求めて 53人を歴訪する文学的な美しい求道譚「入法界品」も含まれている。漢訳では 60,80,40巻より成る『六十華厳』『八十華厳』『四十華厳』などがあり,最後のものは,前2者中の「入法界品」に相当する。思想的には,現象世界は互いに働きかけつつ交渉し合い,無限に縁起し合うという事事無礙 (じじむげ) の法界縁起 (ほっかいえんぎ) の思想に基づき,菩薩行を説くことを中心としている。

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世界大百科事典(旧版)内の華厳経の言及

【華厳宗】より

…《華厳経》を所依とする仏教の一派。
[中国]
 中国では5世紀の初めに,覚賢が訳出した60巻本《華厳経》を読誦し,供養することによって,霊験を求める民俗信仰にはじまる。…

【密教】より

…第1の雑密とは,世界の女性原理的霊力をそれと同置された呪文,術語でいう真言(しんごん)(マントラ),明呪(みようじゆ)(ビディヤーvidyā),陀羅尼(だらに)(ダーラニー)等の誦持によってコントロールし,各種の目的(治痛,息災,財福の獲得など)を達しようとするものである。純密とは《大日経(だいにちきよう)》と《金剛頂経(こんごうちようきよう)》のいわゆる両部大経を指すが,前者は大乗仏教,ことに《華厳経》が説くところの世界観,すなわち,世界を宇宙的な仏ビルシャナ(毘盧遮那仏)の内実とみる,あるいは普賢(ふげん)の衆生利益の行のマンダラ(余すところなき総体の意)とみる世界観を図絵マンダラとして表現し,儀礼的にその世界に参入しようとするもので,高踏的な大乗仏教をシンボリズムによって巧妙に補完したものとなっている。《金剛頂経》はシンボリスティックに表現された仏の世界を人間の世界の外側に実在的に措定し,〈象徴されるものと象徴それ自体は同一である〉というその瑜伽(ヨーガ。…

※「華厳経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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