改訂新版 世界大百科事典 「官僚資本」の意味・わかりやすい解説
官僚資本 (かんりょうしほん)
guān liáo zī běn
民族資本と対立する概念。とくに,中国共産党の革命運動で生み出された概念である。民族資本は反帝・反封建闘争に参加する可能性があるが,官僚資本は結果的に革命の物的条件を用意するものではあっても,旧勢力(大地主,大商業資本)を維持強化するだけでなく,民族的利益を外国帝国主義に売り渡す買弁的性格しかない,として毛沢東たちによって非難されたものである。毛沢東の〈連合政府論〉(1945)では,〈大地主,大銀行家,大買弁の資本をいう〉と説明され,〈当面の情勢とわれわれの任務〉(1947)ではさらに,〈外国帝国主義ならびに国内の地主階級・旧式富農とかたく結びついた封建的買弁的独占資本〉として,その反動性,買弁性が強調された。事実,抗日戦争(1937-45)遂行時に四大家族(蔣介石,宋子文,孔祥熙,陳兄弟)は国民党政権を完全に私物化し,統制経済を利用して,自己の所有する金融機関,軍需工業,基礎産業(紡績,製鉄,化学,鉱山,港湾,鉄道)の事業体に中国経済全体を従属させようとした。これは一面では国家資本主義的性格をもちながらも,少数者に富を集中する機構がそのまま国内の反体制運動を弾圧するために使用され,弾圧費用の財源を得るために国内資源を外国資本に売り渡すことに何のためらいもなかった点で,国家資本主義の進歩性を欠いたものであった。
一般に,国内の資本主義的生産様式が未発達であるままに世界資本主義の網の目に組み込まれた後発国は,官営事業を主要な柱として,上からの資本主義化を進めるものである。その過程で党官僚なり,政府官僚が政治的,経済的利権を得て私腹を肥やすことも後発国一般によく見られる現象である。あるいは,旧体制下で肥大化した大商業資本が,近代工業分野の支配力を得るために新政府の権力を牛耳ることもある。しかし,ここでいう官僚資本は,官僚の蓄財という次元でとらえられてはならないし,後発の資本主義国たろうとする国の,上からの改革を行う国家資本主義という一般性とは区別されなければならない。国内的には反体制運動によって社会経済的土台をおびやかされ,対外的には諸列強による植民地化の危機という二重の危機に対処すべく,諸列強の資本を誘導して互いに角逐させ,そこから得た財源で旧勢力を自己の主導する経済領域に依存させて反体制運動に対抗する勢力たらしめようとした国民党政権,あるいは北洋軍閥などの各地の軍閥の行動様式に問題の重要性はある。それは,列強の角逐を利用している外形をとりながら,その実,国土を切売りすることでしかなく,官営事業が経済の近代化を促すどころか,少数者の致富欲を満たす以外の何ものでもなかったという特殊中国的な現象こそが重視されなければならない。それゆえに,国家資本と同一視する見解も最近では見られるが,列強の侵略と国内内戦という二重性との関連で官僚資本は理解される必要がある。それはあくまでも,中国の一時代の産物である。
→買辦(弁)
執筆者:本山 美彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報