実体振り子(読み)じったいふりこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「実体振り子」の意味・わかりやすい解説

実体振り子
じったいふりこ

剛体に軸を貫き通し、この軸を水平な軸受で支えて振り子としたもの、または剛体に懸垂用のナイフ・エッジを取り付け、ナイフ・エッジの先端を水平な台の上に据えて振り子にしたものをいう。実体振子(しんし)、物理振り子複振り子あるいは剛体振子とよぶ。剛体の回転軸の周りの慣性モーメントI質量M重心から回転軸までの距離OGhとすると、実体振り子の振動の周期Tは、

となる。ここにll=I/(Mh)で、gは重力の加速度である。実体振り子の周期Tは、糸の長さl単振り子の周期と同じ値をもつ。lは相当単振り子の長さとよばれる。

 重心を貫き実体振り子の回転軸に平行な軸の周りの慣性モーメントをI0=Mk02とする(k0は回転半径とよばれる)と、回転軸の周りの慣性モーメントIは、
  I=I0+Mh2=M(k02+h2)
相当単振り子の長さlの値は、
  l=h+(k02/h)[=gT2/(4π2)]
となる。重心と回転軸との距離hは、二次方程式h2-lh+k02=0を満足する。したがって、同一の周期Tを与えるhには、この方程式の二つの根h1h2とがある。

 二次方程式における根と係数との関係h1+h2=l前述lTの間の関係を用いて、重力の加速度gを測定する装置にケーターKaterの可逆振子がある。

[飼沼芳郎]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「実体振り子」の意味・わかりやすい解説

実体振り子
じったいふりこ
physical pendulum

複振り子,剛体振り子,物理振り子ともいう。重力の作用のもとで,水平な固定軸のまわりを自由に回転できるようにした剛体。振り子の重心をG,回転軸をO,振り子の質量を M ,回転軸に関する慣性モーメントを I ,OGを h とすれば,実体振り子は糸の長さ lI/Mh単振り子と同じ運動をし,振幅が小さい振動の周期 T となる。直線 OGの延長上で OPl の点Pを振動の中心という。実体振り子は点Pにおもりをつけた糸の長さ l の単振り子と等価であり,これを等価単振り子といい,その長さは l である。逆に,実体振り子を点Pを通る水平軸で支えて振れば,点Gが振動の中心となり,同じ等価単振り子をもつので,もとの振り子とまったく同じ運動をする。また,点Oに結んだ糸でこの物体を吊下げ,点Pに水平方向の衝撃力を加えると,物体は点Oを中心として回転する。このとき点Oを打撃の中心 (衝撃の中心,または撃心) という。逆に点Pで吊下げて点Oに衝撃力を加えれば,点Pが衝撃の中心となる。衝撃の中心にはこの瞬間にまったく力が働かない。たとえば野球バットを振る点が打撃の中心となるような位置ボールを当てれば,手はまったくしびれを感じない。実体振り子の応用例には,ケーターの可逆振り子弾動振り子倒立振り子などがある。

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