日本近世の被支配諸身分のもので,家屋敷を所持せず,他人の所持する家屋敷を賃借し,住居として用益する状態の戸主をいう。類語に借家(屋)(かしや)/(しやくや)があり,ほぼ同義ともみられるが,本源的には,家屋敷の全部を賃借するものを借家といい,家屋敷の部分を賃借するものを店借と呼んだと考えられる。借家・店借は,地借と同様に,本来はそれ自体固有の身分・階層ではなく,百姓・町人・諸職人などの被支配諸身分のものが一時的におかれている地位・状態である。すなわち,正規の身分に属するために不可欠の条件である家屋敷の所持を,あるいは実現しておらず,あるいは喪失し,このために非家持化した状態を示す。したがって,借家・店借・地借は,それぞれが所属する村や町の共同体の本来の構成員たりえず,共同体の運営や特権・所有の諸体系から二次的位置へと疎外されている。また負担の点からみれば,家持が担う屋敷地年貢(地子)や公権力や領主への役負担は免除され,また,共同体内の諸負担についても免除されたり,家持より軽減されたりしている。しかし,借家・店借が家持や地主に支払うところの店賃(家賃,宿賃)は,とくに零細な借家・店借などにとっては過重な負担となった。一方,家持・地主などは,こうした店賃収入を当該家屋敷の地子や役負担,共同体諸経費に充当するのを常とした。近世において借家・店借の存在は,とりわけ都市域では量的にも質的にも重要な構成的比重をもった。都市に展開する多様な分業を底辺で支えた都市民衆の多くは,裏店(うらだな)と呼ばれる零細な棟割長屋の店借であり,彼らは家屋敷や動産の所持からまったく疎外されていたために,一つの階層を形成するに至った。このため,18世紀以降の諸都市において,借家・店借層の存在は,近世社会の矛盾の焦点の一つとなり,幕府や諸藩を悩ませ続けることになるのである。
→家守
執筆者:吉田 伸之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
借家人とも。近世において,家屋敷の一部を借用して居住する者で,とくに都市に多い。家持(いえもち)と違い,公役・町役の負担は基本的になく,町政に参加する資格もなく,金銭貸借や訴訟の際など家持から種々の統制をうけた。来住時には身元保証人を要した。道に面した家を借りている表店借と面しない所の裏店借の階層があり,裏店には零細住民が多く居住し,流動性が高かった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…これに対して,自分は他所に住み,家屋敷を有する者を家主,敷地のみを有する者を地主という。また,家屋敷の全部または一部を借りて居住する者を借家・店借(たながり),敷地を借りて家屋は自分で有する者を地借とよぶ。家屋敷の敷地部分は,田畑と同じように高請(たかうけ)地とされ,年貢や高にもとづく諸役(高役)が賦課される場合(在方に多い)と,高請地とされないか,または高請地となっても年貢や高役の両方か高役のみが免除される場合(町方に多い)とがある。…
…しかし17世紀後半の寛文~元禄期以後には,町人階級内部の階層分化の進行や,他所からの転入などによって増加した下層庶民の住居として,地主が,この屋敷地内の裏部分に長屋などの住居を建てて,借家経営を行うのが一般的となった。この借家人が店借(たながり)である。その形態は,個々の敷地内に1間幅ほどの路地をはさんで長屋が数棟建ち並び,その一画には住人共用の井戸,便所,ごみためが必ずまとまって配置されていた。…
…御小人組,御簞笥組,御納戸組,黒鍬組といった御家人たちも,それぞれの拝領地内に町方の下層民と混住するといった現象がみられたのである。 御家人の拝領地内につくられた長屋に居住した者と同じような店借(たながり)は多い。ほとんどが9尺間口の,4,5坪の部屋に住み,日雇い稼ぎや棒手振り(行商)に従事している。…
…したがって,一般庶民層の場合において,家産としての家財意識が成立するのは,早くとも南北朝時代,場合によっては,室町・戦国時代をまたなければならないのである。家相続【鈴木 国弘】
[江戸時代店借人の家財道具]
1852年(嘉永5)11月に江戸浅草山之宿町の店借磯吉(46歳)が妻子を引き連れ家出したさい残された家財道具は次の12点であった。〈竈1,古手桶1,古行灯1,擂鉢・擂粉木1,飯櫃1,古小桶1,畳2,小鍋1,古膳1,杓子1,火打はこ1〉。…
…江戸時代,江戸や大坂で住人の約70%と推定される店借が,借家する場合に必要な保証をすること。店請人は親類縁者とか同郷の出身者などが多く,家持だけでなく店借がなる場合もあった。…
… 近世初頭にできた町の性格は,中・後期にかなり変わってくる。それは町内部で,地主・家持(いえもち)の層と店借(たながり)・借家人の層との階層分化が進んでくるためである。近世の都市住民のなかでの店借層の比率は,奥羽・北陸では20~30%であるが,瀬戸内地域では50~60%で,地域により異なっている。…
…それは以下のような事情による。(1)主人不在の家屋敷の多くが都市民衆層に地借(じがり),店借(たながり)として賃貸され,その結果,家守はこれらの零細な地借,店借から地代,店賃(たなちん)を取り立て,併せて,支配の末端として地借・店借層の統制にあたる役割を担うに至ったこと。このような意味で,家守は不在の主人の代替者=家主として,家屋敷の居住者=店子(たなこ)を支配する擬制的な家長としての位置にいた。…
※「店借」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新