寒冷地農業(読み)かんれいちのうぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「寒冷地農業」の意味・わかりやすい解説

寒冷地農業
かんれいちのうぎょう

寒冷な風土条件の下で行われている農業。農業生産は自然的諸条件によって制約されるところが大きいが、とりわけ寒冷な気象条件下では、積雪降霜土壌凍結などによって1年のうちで農作物を生育しうる期間が短く制限されるばかりでなく、夏季の比較的低い気温、日照時間の寡少などによって、農用地の利用方法ならびに栽培しうる作物の数が制約されており、農業生産の限界地というイメージが強い。しかし世界的には、温帯北部から亜寒帯にまたがる高緯度の寒冷地域に、小麦牧畜酪農などの比較的冷涼な条件に適した作物や家畜の広大な主産地が形成されている。

 日本では、根雪期間が年間90日以上、年平均気温10℃以下、無霜期間が130~180日で、水田裏作のできない地域をさし、北海道をはじめとして東北、北陸などの北緯37度以北の地域を概括しているが、このほかにも標高が高いために同じような制約条件下に置かれている高冷地がある。

 これらの地域で安定した経営を行うには、農地利用度の低さをカバーする広い耕地を必要とし、短い農作期間内に適期作業の遂行を確保するための機械化も必要である。また、耐冷性の適作物を中心にして、絶えず冷害の危険に備えることも重要である。適作物としては、畑作ではムギ類、ダイズジャガイモテンサイ牧草などの飼料作物蔬菜(そさい)ではカンラン、ハクサイ果樹ではリンゴサクランボなどがあげられる。また、本来は暖地作物であるイネも、長年にわたる品種改良や技術開発によって寒冷地農業の基幹作物となった。さらに近年は、寒冷地特有の条件をいかした栽培技術や市場対応が、蔬菜作や畑作、酪農などで展開されている。

[七戸長生]

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改訂新版 世界大百科事典 「寒冷地農業」の意味・わかりやすい解説

寒冷地農業 (かんれいちのうぎょう)

寒冷な気候が農業の形態に主要な影響を及ぼす,おおよそ北緯40°以北,年平均気温10℃以下の地帯の農業をいう。

 低緯度の地域でも標高の高い地帯は,温度条件からみると寒冷地に入るが,立地条件が異なるので,高冷地として区別される。寒冷地は一般に根雪期間が長く,無霜期間が短い。また,年間の日射量が少なく,夏季も比較的冷涼であるため,農作物の生育期間が短く,一毛作で耕地利用率が低い。家畜の放牧できる期間も短く,舎飼の期間が長い。また寒冷な気候の下で土壌の風化も進まず,泥炭地,火山灰土,重粘土などの酸性の土壌地帯が多く,土地生産力は概して低い。しばしば寒害・冷害などをうけるので,災害を回避し安定した生産をあげるためには,排水などの土地改良,合理的な輪作体系を組むことが特に重要である。一般的に不利な点が多いため,暖地に比較して経営面積は大きいが,一方,農繁期と農閑期の労働時間の差が大きく,機械化が重要である。同時に労働力配分の観点から作物・品種の選択についての考慮も必要である。栽培作物は,冷涼な気候に耐えうる,コムギ・オオムギ・ライムギなどのムギ類,水稲,ダイズ,ジャガイモ,テンサイ,牧草,飼料作物などである。夏作のものは播種期が遅れ収穫期が早くなるので,生育期間の短い早生種が選ばれる。果樹はリンゴ・サクランボ,家畜は乳牛・肉牛が多い。
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