厳密には決められないが,おおよそ標高700~800m以上で年平均気温10℃以下の地帯の農業をいう。高冷地は傾斜地の山林が多く,これに採草地・牧草地が加わり,耕地面積の比率が少ない。経営面積が小さく,耕地は分散し,1区画の面積も小さい。食用作物の収量は平坦地に比較して少なく,その反面,単位面積当り労働時間が多く,しかも作業適期が短いため,一時に労力を多投することになるなど,食用作物栽培を主体とした農業経営には不利な点が多い。しかし,一般に夏季は冷涼で,雨が少なく湿度も低い,昼夜の気温較差が大きい,日照時間も多く紫外線も豊富であるなどの特徴があり,温帯野菜・花卉(かき)の栽培に適する。病虫害,とくにウイルス病の発生が少なく,採種地としてもすぐれている。また飼料作物の夏枯れもなく,家畜の飼育にも適する。とくに野菜栽培では,7・8月の平均気温が20℃前後で,日較差が大きく湿度の低い条件が良質な野菜の生産に適し,日本では長野県・群馬県などで産地を形成している。都市近郊の平坦地は夏の高温のため野菜栽培に適さず,この高冷地の野菜が主に夏・秋に出荷される。栽培野菜は,キャベツ,ハクサイ,レタスがもっとも多く,ニンジン,メキャベツ,ダイコン,セロリ,カリフラワーなどがある。野菜の連作に伴う諸障害,地力維持など考慮すべき技術的問題もあるが,高冷地の特性を積極的に活用することを考えれば,高い農業生産力を発揮できる可能性をもっている。
→高原野菜
執筆者:石原 邦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
低緯度地帯に立地しながら、標高が600~700メートル以上の高地で行われるため、夏季の冷涼性をいかすことで特徴が発揮される農業をいう。高冷地では、標高が高くなるにつれて作物の栽培可能期間が短くなるが、土地利用が一年一作に限られる地帯と一年二作が可能な地帯とに区分し、前者を狭い意味の高冷地、後者を準高冷地とよぶこともある。現在の技術水準のもとでは、冷房を行うことによって夏季に作物を栽培しても採算がとれない。そのため、高冷地農業は、低暖地の農業に対して優位性を保てる可能性が大きい。一方、高緯度の寒冷地農業も、夏季の冷涼性をいかせるという点では高冷地農業に共通する条件を備えている。
しかし、高冷地農業という場合、重要なのは低緯度地帯に立地しているという点である。つまり、日本の場合、関東地方以西に立地するということであり、そのことは、高冷地が寒冷地に比較して市場に近接していることを意味する。その結果、高冷地では、鮮度が重視され、同時に、単位重量当りの価格が低いために輸送費が割高につくような作物が生産されることが多い。しかし、最近では、道路が整備され、輸送技術が進歩し、冷蔵施設も完備してきており、高冷地農業と寒冷地農業の競争が激化している。
[桂 瑛一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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