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『源氏物語』の注釈書。四辻善成(よつつじよしなり)著。貞治年間(1362~1368)ころに、室町幕府2代将軍足利義詮(よしあきら)の命によって成った。前代までの諸注釈を批判的に統合しつつ、豊富な引用書を駆使した考証により成った本書は、『源氏物語』研究初期の集大成的注釈書といえる。『源氏物語』古注釈史においても画期的な著書であり、その後の注釈に大きな影響を及ぼした。源光行(みつゆき)・親行(ちかゆき)親子の写本である河内(かわち)本と、藤原定家の写本である青表紙本の両方に注目している点、また、『源氏物語』が典拠とした先例や史実を明らかにしようとする姿勢が強く見られる点も本書の特徴である。著者の四辻善成は南北朝時代の和学者であり、順徳天皇の皇子善統(よしむね)親王の孫。後年、『河海抄』に載せなかった秘説を『珊瑚秘抄(さんごひしょう)』で著している。
[吉井美弥子]
『吉森佳奈子著『『河海抄』の『源氏物語』』(2003・和泉書院)』
南北朝期の「源氏物語」注釈書。20巻。1360年代初頭,のちの従一位左大臣四辻善成(よつつじよしなり)が将軍足利義詮(よしあきら)の命により著す。本文に「物語博士源惟良撰」とあるが,光源氏の乳兄弟の惟光と腹心の家臣良清の名から作ったもの。書名は「和漢朗詠集」の「河海不厭細流,故能成其深」から,諸説を集めた意による。初期の代表的源氏注釈書で,引用された文献には,今日すでに散逸したものも少なくない。巻頭に「源氏物語」の成立事情・準拠・諸本・紫式部伝のほか,後代和歌への影響が解説される。玉上琢弥編「紫明抄・河海抄」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…古くは〈かちょうよせい〉とも呼ばれた。四辻善成の《河海抄(かかいしよう)》のあとをうけて,その遺漏を補い,誤りを正すことを意図した書。《源氏物語》のみならず広く和漢の学に通じ,当代一の学者であった兼良の学識を反映した著作であるが,《河海抄》が出典,準拠など考証を主としているのに対し,本書は煩瑣な考証は控え,《源氏物語》の本文に即した文意,歌意の説明,文脈の解明に重きを置く。…
…京都ではこのころ了悟の《幻中類林》が出て独自の主張を試み,やや下って長慶天皇の辞書《仙源抄》が成り,碩学花山院長親も名高い。四辻善成(よつつじよしなり)(1326‐1402)の《河海(かかい)抄》は博引旁証,注釈の基礎を築いた。室町時代には,一条兼良の《花鳥余情》は鑑賞や語法面に新機軸を開き,宗祇およびその周辺の連歌師たちもそれぞれ業績を残している。…
※「河海抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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