日本大百科全書(ニッポニカ) 「対外援助」の意味・わかりやすい解説
対外援助
たいがいえんじょ
foreign aid
外国に対して商業ベースによらずに行われる物資、資金、技術などの供与をいう。このような対外援助が国際政治・経済上重要な意義をもつようになったのは第二次世界大戦以降のことである。対外援助は、その性質によって大きく軍事援助と経済援助とに分けられる。
第二次世界大戦中、アメリカはいわゆる民主主義の兵器廠(しょう)として連合国に大量の兵器や食糧を援助したが、戦後も東西の対立が激化した冷たい戦争の時期には、東西の当事国にとって、援助は経済援助よりも軍事援助に重点が置かれた。
しかし、東西冷戦の緩和とともに、援助の内容はしだいに経済援助に移行し、とくに近年は、先進国が開発途上国に対して行う経済援助が対外援助の主要部分を占めるようになってきている。以下、本項ではこの開発途上国向けの経済援助を中心に解説する。
経済援助は普通、次の条件を満たすものをさす。すなわち、
(1)商業ベースで行われるものでないこと、
(2)グラント・エレメント(贈与相当分)が高いものであること、
(3)開発途上国の経済開発と福祉の増進をおもな目的とするものであること、
の三つである。
[相原 光]
援助の種類
経済援助は、大きく民間ベースの援助と政府ベースの援助とに分けられる。
[相原 光]
民間ベースの援助
民間ベースの援助はNGO(非政府組織)の援助活動が代表的なもので、個人、民間企業、宗教団体、場合によっては政府の外郭団体が資金、技術、教育などの分野で援助を行っている。援助の規模は政府ベースの援助が圧倒的に大きいが、民間の援助は、政府ベースでは実施が困難なきめの細かい援助の場合に効果的であると評価されている。
[相原 光]
政府ベースの援助
政府ベースの援助には、政府資金を政府系の金融機関を通して行うものもあるが、主体は政府が直接行う政府開発援助(ODA)とよばれるものである。これは二国間のものと多国間のもの(国際機関に対するもの)とに分けられ、二国間ODAはさらに贈与と借款に分けられる。
二国間の贈与では、無償資金協力と技術協力が柱となっている。無償資金協力には、病院、職業訓練センター、各種研究所などの建物・施設の建設、資材・機材の調達に必要な資金の供与、債務の救済を目的とした援助、災害救済、文化交流、食糧援助などがある。技術協力は、開発途上国の経済・社会開発に必要な知識、技能、技術を与えることを目的として、研修生の受け入れ、専門家の派遣、機材の供与、開発調査事業、青年海外協力隊の派遣などを行う。いわゆる物や金の援助でなく、人づくりのための援助であり、今後重要性を増してくると思われる援助形態である。このような無償協力に対して、有償資金協力として直接借款(わが国では一般に「円借款」とよばれる)がある。これはプロジェクト借款と商品借款とに分けられる。プロジェクト借款は、製鉄工場・肥料工場などのプラント建設、交通・運輸などの社会資本の整備のための借款であり、商品借款は、これによって必要な物資や機材を購入させ、現地での売却代金をその国の経済開発、福祉の増進のために用いるようにするものである。借款の供与にあたっては、借款による物資・サービス調達先を供与国に限定するひも付きの場合(タイド・ローン)と、そうでない場合(アンタイド・ローン)とがある。ひも付きにした場合、価格・質の両面で、もっとも有利な条件で物資・サービスが調達できるとは限らない。したがって、その不利になる分だけ援助の名目額を割り引いて考える必要がある。また、借款による物資調達の入札をめぐって汚職問題が発生することもあり、援助に対して暗いイメージを与えている事実も否定できない。
多国間援助は、開発途上国の開発に寄与することを目的に活動や救済事業を行っている国際機関を通して行われるもので、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官(UNHCR)などへの贈与の形態をとる国際機関贈与と世界銀行(国際復興開発銀行)、アジア開発銀行など開発途上国の開発計画に対して融資を行う国際開発金融機関への出資・拠出である国際機関出資とがある。
[相原 光]
援助の動機・理念
援助の動機・理念は国や時代によって違うが、本来的には貧困国に対する慈善や道義的責任が強調されるべきものであり、北欧諸国の援助がそのような性格をもっているとされている。相互依存の増大を重視し、開発途上国の繁栄が確立されなければ世界的に安定的な秩序は得られないことを強調する議論が支配的となっている。しかし多くの場合、援助供与国の国益が優先し、極端にいえば、アメリカは安全保障戦略を優先し、日本は輸出および企業進出優先型であるともいわれている。実際にはまったくエゴイズムの働かない援助はないといってもよく、いずれにしても、援助の場合、たてまえと本音の食い違いがみられることが多い。また、援助の動機は別として、援助が開発途上国の経済開発に与える効果も問題で、表面的な成長率よりも成長によってもたらされた成果の分配が一部階層に偏らないようにすることが重視されている。
[相原 光]
『R・F・マイクセル著、原覚天監修、渡辺利夫訳『低開発国援助の経済学』(1971・勁草書房)』▽『宍戸寿雄・東南アジア研究会編著『まちがいだらけの南北問題』(1982・東洋経済新報社)』▽『樋口貞雄著『政府開発援助』(1986・勁草書房)』