改訂新版 世界大百科事典 「対潜哨戒機」の意味・わかりやすい解説
対潜哨戒機 (たいせんしょうかいき)
antisubmarine patrol aircraft
敵の潜水艦から洋上の船団を護衛し,航路を確保するために哨戒する航空機。潜水艦を探知し,識別し,攻撃する装備品を搭載する。対潜水艦戦用の航空機は,第1次・第2次大戦においてドイツ潜水艦の脅威に対処するために発達してきたといえる。第1次大戦当初の潜水艦は短時間しか潜航できなかったため,浮上した潜水艦を探す目的で飛行船が活用されたが,速度不足で,発見場所に接近したときには目標潜水艦はすでに潜航しており,攻撃する機会に恵まれなかった。そこで高速の飛行艇が使用されるようになり,1917年後半から300ポンド爆雷等の攻撃兵器によってドイツ潜水艦に対する成果をあげるようになった。第1次大戦後に対潜水艦戦用の航空機はほとんど進歩せず第2次大戦を迎えたため,開戦当初はドイツ潜水艦がふたたび猛威を振るったが,42年以降,レーダー,探照灯,さらに磁気探知機等を装備するようになり,攻撃兵器もホーミング魚雷(潜水艦を自動的に追尾する魚雷)や500ポンド爆雷を備えて,潜水艦を効果的に沈めるようになった。50年代後半に原子力潜水艦が運用を開始するとともに,数ヵ月間も潜航可能で迅速に航行する潜水艦がおもな対象となり,そのためコンピューターによって数多くの雑音の中から迅速的確に潜水艦の信号を探知・識別する情報処理能力が対潜哨戒機の〈かぎ〉となっている。
現在,対潜水艦戦用の航空機は,陸上基地から発進して長時間哨戒可能な大型機の対潜哨戒機,空母から発進可能な小型機の対潜機および対潜ヘリコプターに大別される。アメリカのP3C型機は,現在の対潜哨戒機の代表であり,コンピューターによる情報処理能力に最も優れているといわれており,海上自衛隊でも1978年度から導入を開始した。
→潜水艦
執筆者:別府 信宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報