中国の古代から伝わる健康体操。元来古代の神仙家が用いていた不老長生のための養生法の一つで,のちに医家も治療法として按摩とともに採用した。導引がいつごろ始まったか明らかでないが,戦国時代(前5~前3世紀)には,すでにかなり広く行われていたらしい。前漢時代(前206-後8)初期の著作《淮南子(えなんじ)》には,〈呼吸によって古い気を吐き新しい気を入れながら,熊のように歩き,鳥のように体を伸ばし,鳧(あひる)のように浴び,猿のように足早やに進み,鴟(ふくろう)のように視つめ,虎のようにふりむく〉と,具体的な身体の動かし方が記されている。1973年末,湖南省長沙市の馬王堆3号漢墓から,導引の具体的な演法を44型以上も図解した帛書(はくしよ)が出土し,これによって秦代から漢代初めの導引の実際が明らかになった。くだって後漢時代(25-220)の末ごろ,医者として名高い華佗(かだ)は,当時盛んに行われていた導引を,虎,鹿,熊,猿,鳥の5種の型にまとめて五禽戯と称した。これよりのち,五禽戯は,さまざまな変化が加えられながら,今日まで伝えられている。なお,導引は,日本にも平安時代に伝来して貴族の間で行われていたが,江戸時代になると民間にも普及し,長崎の鉄斎老婆のように一家を成したものもいる。しかし,明治時代以後は,ほとんど忘れられてしまった。
執筆者:坂出 祥伸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その三千歳の亀を火にあぶり突きくだいて服用すれば,人間も千歳の寿命を得ると《抱朴子(ほうぼくし)》佚文(いつぶん)にいう。亀が長寿であるのは導引など特殊な呼吸法を用いるからだとされる。亀が行う導引のことはすでに《史記》に見えるが,後漢末の雑記集《異聞記》には次のような物語が見える。…
※「導引」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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